【図1】コロイド結晶レーザーデバイスの構造。最密充填ポリスチレンのブラッグ反射により共振を起こす
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【図2】コロイド結晶レーザーデバイスの反射スペクトル(青線)とレーザー発光のスペクトル(赤線)
【図2】コロイド結晶レーザーデバイスの反射スペクトル(青線)とレーザー発光のスペクトル(赤線)
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【図3】PETフィルム上にコロイド結晶薄膜を形成(左)。フレキシブルなオールプラスチック・微小レーザーデバイスの可能性(右)
【図3】PETフィルム上にコロイド結晶薄膜を形成(左)。フレキシブルなオールプラスチック・微小レーザーデバイスの可能性(右)
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 物質・材料研究機構は,200nm径のポリスチレン微粒子を三元的に自己配列した薄膜で発光性樹脂を挟んだ構造のレーザー発振装置を作成,光励起によってレーザー光を発振させることに成功した。同薄膜を樹脂フィルム上に作成することも可能で,オールプラスチックのレーザーデバイスを実現できる可能性が出てきた。

 レーザー発振デバイスの作成法はまず,202nm径のポリスチレン粒子の懸濁液を親水性ガラス上に展開する。すると,粒子が自己組織的に最密充填構造をとり,「コロイド結晶」と呼ばれる結晶構造を形成することができる。これをシリコンゲルで固定化してコロイド結晶薄膜とする。この二枚のコロイド結晶薄膜の間に,蛍光色素を含む紫外線(UV)硬化モノマーを注入し,光照射によって発光層を硬化・固定化し,レーザーデバイスを作成する(図1)。発光層の材料は,両末端に重合できる官能基を付けたポリエチレングリコールと蛍光性色素である「ローダミン640」,光重合開始剤の混合物である。

 通常,外部光共振器型のレーザーデバイスは,レーザー発光素子を二枚のミラーで挟み,共振現象によって光を増幅して,レーザー光を取り出している。これに対して,開発したレーザー発振素子では,コロイド結晶が「ブラック反射」という特定の光を反射する性質を利用している。二枚のコロイド結晶が外部共振器のミラーのように働き,共振現象を起こす(図1)。

 一枚のコロイド結晶薄膜の反射・透過スペクトルを測定すると,620nm近辺に25nm幅の反射強度のピークが得られた。これは,ポリスチレン粒子の最密構造によるブラッグ反射が起こっていることを示している。さらに,このデバイスに532nmの光(Nd:YAGレーザーの第二高調波)で照射して励起すると,同じ620nm付近に光強度が2.0×102kW/cm2と数千倍に増幅され,発光スペクトルの幅が0.8nmと狭いピークのレーザー光を発振できたことを確認した(図2)。このレーザー発振波長がブラッグ反射のピークの中にあることから,デバイス内の共振現象によってレーザー発振が起こったことが確かめられたとしている。

 同研究機構は,この光発振デバイスをPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に成膜できることも確認している(図3)。このことからすべて,有機材料からなるフレキシブルで,加工性に優れたな微小レーザーデバイスが作成できる可能性がでてきた。既存の外部共振器型のレーザーデバイスは微小化することが難しいが,開発したレーザーデバイスならば,光集積回路中に組み込むことも可能になるという。

 さらに今後同研究機構は,半導体レーザーと同様の電流励起によるレーザー発振の検討も進める計画で,オールプラスチック・レーザーデバイスの可能性を広げる考えだ。なお,同研究成果は高分子学会主催の「第14回ポリマー材料フォーラム」(2005年11月15~16日,タワーホール船堀,東京)で発表される。