繊維強化プラスチック。プラスチックを母相とした繊維強化材料。FRPはGFRP(glass fiber reinforced plastics)とACM(advanced composite materials=先進複合材料)に大別される。
GFRPは安価なガラス繊維を強化繊維に用いており,広く使われている。そのガラス繊維には「Eガラス」(アルカリ含有率1%以下で絶縁性に優れたホウケイ酸ガラス)が使われることが多い。
GFRPは,母材(マトリックス)が熱硬化性樹脂のGFRTS(glass fiber reinforced thermosets)と熱可塑性樹脂のGFRTP(glass fiber reinforced thermoplastics)に分けられる。熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステルが多く用いられる。そのほか,フェノール樹脂,ジアリルフタレート樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂なども用いられることがある。一方,熱可塑性樹脂にはポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリアミド樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリブチレンテレフタレート樹脂などが用いられる。
ACMは強化繊維として炭素繊維やボロン繊維,アラミド繊維などを用いたものである(このうち炭素繊維で強化したものをCFRPと呼ぶことも多い)。マトリックスは樹脂や金属,セラミックスなど。航空宇宙分野やスポーツ器具などに使用されている。
スポーツから航空機へ
FRPのうち炭素繊維を使ったCFRPはゴルフクラブのシャフトや釣竿などのスポーツ用途から始まって,航空宇宙用途に拡大してきた。特に象徴的だったのが,米Boeing「777」でCFRPが水平,垂直尾翼をはじめ広範囲に使用されたことだった。また,次期旅客機「787」では初めて主翼にCFRPが採用された。このCFRP製主翼は三菱重工業が製造しており,その開発ストーリーはNHKが9月10日に放送したNHKスペシャル「巨大旅客機誕生~大競争時代・そこに日本の技術あり~」でも紹介され,話題を呼んだ。
また,ANAは国内線一般席(エコノミークラス)用にCFRPを使った新シートを開発し,2005年10月より順次置き換えを始める。従来はアルミニウム合金を使っていた構造部材をCFRP製とし,強さや安全性を犠牲にせずに軽量化。その結果,燃料の消費量を「ボーイング777-200」の場合,年にドラム缶200本程度減らしたという。
自動車向けに開発競争が激化
航空宇宙用途に続いて,各社が狙っているのが自動車分野である。燃費改善,温暖化防止のためにも現在の主流である鋼板をCFRPに置き換えて軽量化したい。現在CFRPはレース用や一部のスポーツカーなど少量生産車種,およびプロペラシャフトなど一部の部品にしか使われていない。
量産車種に使うためには,現在数時間かかっているサイクルタイムを10分以下にして,コストダウンする必要がある。このため,例えば,NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は国家プロジェクト「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」の一環としてCFRPの高速成形技術を開発している。マトリックス樹脂(エポキシ樹脂)と炭素繊維のシート形状,成形法を抜本的に見直し,材料セットから取出しまで,10分以下に短縮するめどをつけたという。こうした新技術を駆使して,自動車への普及を図る。
CFRPのサイクルタイムが短縮できない理由の一つは,マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を使っているためである。樹脂の硬化には時間がかかるからだ。そこで,冷却するとただちに固化するためにサイクルタイムを短縮しやすい熱可塑性樹脂も候補に挙がっている。
例えば,東レ・デュポンと米Kubota Reserch Associates,Inc.は,熱可塑性樹脂を含浸したパラ系アラミド繊維と近赤外線吸収剤を含む不織布を積層した新しいタイプの長繊維強化複合材料を開発,CFRのように大掛かりな加熱炉が必要なく,成形サイクルタイムも短いことから,自動車外板分野への採用を狙っている(図1)。
炭素繊維やアラミド繊維といった高機能な繊維ではなく,低コストなガラス繊維系の複合材料を自動車分野に適用しようという動きもある。
【図2】「レクサスIS」に採用されたSMC製リアガーニッシュ(クリックで拡大図を表示)
トヨタ自動車は,高級車「レクサスIS」にFRPの中でもガラス繊維を使うSMC(シート・モールディング・コンパウンド)をリアガーニッシュに採用した(図2)。製造したのはジャパンコンポジットである。鋼板では分割して造らなければならない深絞り形状を,FRPを使うことで一体成形した。併せて,塗装後の外観品質を鋼板製の他のボディ外板並みに高めることで同車に採用が決まったという。
今後,鋼板が牙城の自動車外板分野を巡って,炭素繊維-エポキシ系,アラミド繊維-熱可塑性樹脂系,SMCなどが熾烈な開発競争を繰り広げそうだ。