東レ・デュポンと米Kubota Research Associates,Inc.は,熱可塑性樹脂を含浸したパラ系アラミド繊維と近赤外線吸収剤を含む不織布を積層した新しいタイプの長繊維強化複合材料「RUBA-C」を開発,「IPF(国際プラスチックフェア)2005」(2005年9月24~28日,幕張メッセ)に出展した(図1)。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のように大掛かりな加熱炉が必要なく,成形サイクルタイムも短いことから,屋根材などの自動車外板分野への採用を狙う。2005年内にサンプル出荷する予定。
パラ系アラミド繊維「ケブラー」の織物に含浸する熱可塑性樹脂は,ポリイミド,ポリプロピレン,ナイロン,ポリビニルブチラールなど多様である。樹脂を含浸した織物(プリプレグ)を多層化するが,層間にポリプロピレンに炭素系の近赤外線吸収剤を混ぜ込んだ不織布「スドー不織布」を挟んで,近赤外線ビーム(800 nm~2000 nm)を照射して加熱溶融させて複合材料を製造する。4層までは一回の照射で硬化できる。それ以上多層化する場合には,複数回照射する必要がある。
成形も可能である。真空成形と同じ手法で,簡易型にプリプレグをセットし,真空に引いて圧力をかけ,近赤外線を照射することにより形状どおりに硬化する。近赤外線の照射装置は複写機のスキャンと同じような感じで,必要な部分だけを走査するように設計できる。
同社がまず狙う用途は自動車の外板である。これまで,長繊維強化複合材料としてはCFRPがあり,航空・宇宙分野の構造体として普及している。これらの用途では,エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に使い,大型加熱炉で10時間以上加熱して樹脂を硬化させている。このため,サイクルタイムが長く自動車などの量産品には使えなかった。加熱炉の中で,熱劣化する問題も指摘されている。今回開発した新複合材料は,熱可塑性樹脂を使っているので,1mm×3mmの自動車の屋根材程度のものならば数十分のサイクルタイムで製造できるという。しかも,大型の加熱炉は必要なく,小型の近赤外線照射装置を走査すれば硬化できるために設備投資も少なくて済む。
またCFRPよりは繊維,樹脂ともに靭性・耐衝撃性に優れ,衝撃時に割れて破片が飛び散るような現象がないというメリットがある。ただし,引っ張り強度などの強度面ではCFRPの方が高い。単体では屋根材などの比較的強度が低くても済む用途に使えると見る。ドアなどの比較的強度が必要な構造部材ではCFRPとのハイブリッド的な使い方も考えられるという。
なお,CFRPサイドでもハイサイクル成形化の検討は進んでおり,今後鋼板が牙城の自動車外板向けを巡って,様々な長繊維強化複合材料が提案されていくと見られる。