雑誌 特集

儲かるナノテク

田野倉 力
2005/05/28 16:39
 
日経ものづくり 特集

ナノテクノロジーがいよいよ商売になる。フラーレン,カーボン・ナノチューブといった「ナノテク素材」が市場に出た。多くても各社40t/年というささやかな生産規模だが,これを数%入れて製品の機能が上がるのなら,争って採用するのは当然だ。効能を引き出すユーザーの技術力が問われる。(浜田基彦)

Part1【戦略と限界】
初期のCFRPと同じく,まずスポーツ用品から。
産業用途へ展開するための方策は。

Part2【フラーレン】
スポーツ用品メーカーが一斉に採用。
数量が出て単価が高いのなら商売になる。

Part3【カーボン・ナノチューブ】
年内にも携帯電話用カメラの用途が立ち上がる。
樹脂だけでなく金属へも採用か。


Part1【戦略と限界】
CFRPの成功体験再び
使いこなすには技術力が必要

ナノテクノロジーを応用した商品が店頭に並び始めた。
手始めはラケット,ゴルフクラブといったスポーツ用品。
いつかCFRPがたどったように,やがては産業に欠かせない材料になる。
ただし,そこまでの道は平たんではない。

 学問の世界にあったナノテクノロジーから「商売のにおい」がしてきた。2004年末から,フラーレンを採用したスポーツ用品が相次いで登場し,フラーレンが身近になった。
 もう一つのナノテク素材であるカーボン・ナノチューブは,既に身近にある。電池メーカー自身が積極的に宣伝しないので分かりにくかったのだが,世の中に出回っている高性能なリチウムイオン電池の多くにカーボン・ナノチューブの一種であるVGCF(Vapor Growth Carbon Fiber)が入っているという。また,カーボン・ナノチューブを入れた樹脂部品を使った携帯電話機向けカメラのサンプル出荷が2005年7月に予定されており,用途は電池からカメラに広がる。

10万円が50円に
 学問的な興味深さを評価され,登場以来20年,研究者の注目を集めてきたナノテクノロジー。フラーレンだけで投稿文献数は年間2000件以上あるという。まず医学,薬学への応用が有望とされ,工業材料の候補になったとしても電極材料など電気的特性に着目したものが多かった。それがスポーツ用品にまで広がった陰には急速な素材の価格下落がある。
 フラーレンの例を見てみよう(図)。ここ数年の間にフラーレンの製造方法はアーク法から燃焼法,さらに連続燃焼法と目まぐるしく変わった。連続燃焼法は炭化水素を原料とするもので,カーボンブラックの生産工程と極めて近い方法。トップメーカーであるフロンティアカーボンが本格的に投資をして福岡県北九州市に年間約40tを生産できる大規模な設備を立ち上げた。標準的なブレンドである「nanom mix」(C60が60%,C70が25%,それ以上の高次フラーレンが15%)の価格は500円/gまで下がった。1992年に10万円/gだったことを考えれば急速な下げ方だ。
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図●フラーレン
60個の炭素(C)がサッカーボールのようにつながったC60が基本。70個のC70,それ以上の高次フラーレンがある。アーティストで建築家のBuckminster Fullerが提唱した「フラードーム」


Part2【フラーレン】
2005年型スポーツ用品の目玉
高価格を納得させる機能あり

急速に用途の立ち上がったフラーレンは,
高価格のスポーツ用品に採用が相次いだ。
価格に見合った効能がないと,最終ユーザーは納得しない。
各社とも,効能を自ら確認して採用を決断した。
評価する力,基本的な生産技術力のある会社にしかできないことだ。

 「パワーに加え,コントロール性も同時に手に入れることができたわ。コートのどこからでも自分のイメージ通りのショットが打てる安心感が持てるの」。スロバキアのDaniela Hantuchova(図)は愛用するラケット「NANOSPEED RQ7 MID PLUS」をこのように評した。ロシアのMaria Sharapovaと人気を二分する人気選手の支持を受けたことは,ラケットのメーカーであるヨネックスにとっても心強いことだろう。
 このラケット,ヨネックスにとってテニスラケットに初めてフラーレンを応用した製品だ。現在のテニスはスピードのあるテニス。振り抜きが良く,操作性の良い「軽い」ラケットが必要になる。軽くするためにはラケットの材料を減らすことになるが,それではラケットの剛性が不足し,打球の面の安定性が落ちる。
 Hantuchovaが言う「自分のイメージ通りのショットが打てる安心感」というのは,この面の安定性を指すのだろう。フラーレンを入れた甲斐があったというものだ。

半年に6商品の「ナノ攻勢」
 ヨネックスはここ半年,ナノテクノロジー応用商品を立て続けに発売した。まず2004年11月にバドミントンラケット「NANOSPEED 7000」を発売した。明けて2005年1月にはテニスラケットに展開した。テニス用には「NANOSPEED」4種,ソフトテニス用には「NANOFORCE」3種の2シリーズを発売した。続く2月にはゴルフクラブ「CYBERSTAR NANOV」,4月にはバドミントンの第2弾「NANOSPEED 8000」と,矢継ぎ早の展開だ。同年冬のシーズンに向けてスノーボード「AIR CARBON TUBE SMOOTH」の発売も控えており,同社の「ナノ攻勢」は止まらない。

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図●スロバキアのDaniela Hantuchova
パワーとコントロール性を評価する。


Part3【カーボン・ナノチューブ】
携帯電話機に欠かせない素材に
CFRPの弱点もこれで解決

カーボン・ナノチューブは,電池で実用化が先行した。
構造材でも,携帯電話機用カメラモジュールでの応用が始まる。
「実は強さが出ていない」というCFRP最大の問題も解決できる。
金属では,鉄鋳物並みの強さを持つアルミニウムの実現が目標だ。

 携帯電話機用カメラの画素数は2メガM時代に突入した。3メガ時代も近い。それも自動焦点,ズームレンズという高級なスペックが当然のように要求される。
 現在,こうしたカメラに使うレンズユニットのメーカーはかなり無理をしながら生産を続けている。成形した樹脂の精度が安定せず,金型は加工したままでは使えない。試成形して製品の光学特性を測り,手直ししてからでないと量産に掛かれないという。「10個組んでみて傾向を分析し,どっちに振れているかを判断」という手間の掛かる管理だ。
 その解決策がカーボン・ナノチューブ。樹脂に5%混入するだけで寸法安定性が向上する。年内にも,カーボン・ナノチューブは携帯電話機に欠かせない材料になりそうだ。

カメラモジュールに打って出る
 シチズン時計の関連会社であるミヨタ(本社長野県・御代田町)。カメラモジュールをOEM供給してきたメーカーである。現在,カメラモジュールはCMOS(相補型金属酸化物半導体)やCCD(電荷結合素子)などセンサメーカーのブランドで供給しているが,実際には同社をはじめとする協力メーカーがレンズ,鏡胴,駆動機構を造り,センサを組み込んで携帯電話機メーカーに納入する。
 こうしたビジネスの流れが変わろうとしている。センサメーカーが価格競争の厳しさに音を上げて,センサ単体での供給に仕事を絞ろうとする動きがある。代わって前面に出るのがミヨタなどのレンズユニット・メーカーだ。競争は厳しいがビジネスチャンスでもある。同社は将来,携帯電話機用カメラが年産6億台になると見越しており,その半分の3億台を受注することを狙う。
 そうした自信の根拠の一つがカーボン・ナノチューブ。同社は信州大学工学部と共同で,VGCFを樹脂に混ぜ込んで精度を高めたレンズホルダーを開発した。PBT(テレブチレンテレフタレート)に5質量%のVGCFを混ぜてレンズホルダーを試作した。

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図●2005年7月にサンプル出荷するCMOSカメラモジュール
シチズン時計,シチズン電子,ミヨタの3社協業でできた。レンズホルダーの担当はミヨタ。

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