用語解説

 作動温度が+800~+1000℃と高いことから45~65%と各種燃料電池の中では最も高いエネルギー変換効率を持つ,固体酸化物型燃料電池(SOFC:solid oxide fuel cell)に使われるセラミックス系の固体電解質,触媒,セパレータ材料のこと。

 SOFC用の固体電解質材料として一般的に使われているのがイットリア安定化ジルコニア(YSZ)やスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などのジルコニア系セラミックスである。触媒としても,燃料極には NiO-YSZ,NiO-ScSZといったジルコニア系セラミックスが使われる。空気極には,ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM),ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC),サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)といったセラミックスが採用される。

酸化物イオンが電解質膜を伝導

 原理としては,カソード(空気極)と電解質膜の界面で空気中のO2が酸化物イオン(O2-)になり,電解質膜を通ってアノード(燃料極)に向かって移動する。一方で,アノードと電解質膜の界面では,O2-と燃料であるH2またはCOが反応して,H2OとCO2となる。この際に,外部回路に電気エネルギを取り出せる。

 SOFCの効率が高いのは,第一に高温反応であるために電極反応や電解質の抵抗が小さくなること,第二に高温の排熱を使って燃料を内部改質すると共にガスタービンを回して発電できる,の2点が理由として挙げられる。

作動温度を+700℃以下に

 SOFCは作動温度が高いためにセル周辺の耐熱部品に特殊な耐熱材料であるNi系耐熱合金を用いる必要があり,高コストになっていることから,作動温度を下げる動きがある。従来の+1000℃からここ数年で+800℃程度にまで下がり,+700℃以下のものも開発されている。作動温度を+700℃まで下げることで,セル周辺の耐熱部品にステンレス鋼を採用できるので,コストを下げられ,携帯機器にSOFCを搭載できる可能性もある。

低温化手法は「薄膜化」と「新材料化」

 作動温度を下げるためには固体電解質材料面で二つの方法がある。第一は,温度を下げるとイオン伝導度が下がるために従来のジルコニア系固体電解質を薄膜化して抵抗を下げてそれを防ぐこと。第二はイオン伝導度そのものが高い新材料を使うことである。検討されている新材料としては,セリア系電解質(SDC,GDC)やランタンガレート(LaGaO3)がある。

供給・開発状況
2006/12/01

米Mesoscopic Devices社,TOTO製SOFCセルを採用したポータブル電源を2007年に発売

 米Mesoscopic Devices社は,2006年11月13~17日に開催された「2006 Fuel Cell Seminar」で「Portable 250W Solid Oxide Fuel Cell Battery Charger Operating On Liquid Fuels」と題して講演し,SOFCを利用した250Wのポータブル電源を2007年にも発売することを明らかにした。SOFCには,TOTOが開発した小型の円筒型セルの供給を受けるという。

 開発中のポータブル電源の外形寸法は6インチ(約15cm)×8インチ(約20cm)×10.5インチ(約27cm)で,重さが乾燥状態で4kg以下になるとしている。燃料は外付けでプロパンガスやLPG(液化プロパンガス)をはじめ,液体燃料である灯油を利用できる。

Siemens Power Generation社のSOFC,波形断面で出力密度350mW/cm2を達成

 米Siemens Power Generation社は,2006年11月13~17日まで米国ホノルルで開催されている「2006 Fuel Cell Seminar」において「Development of High Power Density Seal-Less SOFCs」と題して講演し,高い出力密度を備えるSOFCのセルについて報告した。

 同社では円筒型のセルではなく,円筒を平たく潰した形状の断面に4本のリブを配置し,5個のチャネルを備える「HPD5」と,9個のリブを配置して10個のチャネルを備える「HPD10」の開発を進めてきた。実際,これらは円筒型に比べて反応面積が大きいことから出力が高まる。具体的には,円筒型が230mW/cm2の出力密度しかないのに対して,HPD5で同280mW/cm2,HPD10で同330mW/cm2に高まるという。

産総研と日本ガイシ,ハニカム構造を備えたSOFCの製造技術を確立

 産業技術総合研究所と日本ガイシは,ハニカム構造を備えたSOFCの製造技術を確立した。15mm×15mmの断面積の中に256個のセルを要するため,発電モジュールを小型化できる。

 さらに,これまでのSOFCは急速に加熱したり冷却したりすると,熱応力でセルが破損してしまう恐れがあったが,今回開発した構造体は急速な加熱や冷却に対する試験を実施しても壊れないとしている。そのため,室温から数分以内の急速起動や急速停止にも対応可能で,自動車の補助電源(APU)や家庭用燃料電池,携帯可能な電源として適用できるとしている。



2006/02/03

数百kW~数Wまで開発の幅広がる

 SOFCはもともと+1000℃近い高温プロセスであることから,数百kW級のSOFC・タービン複合発電システムとして開発が進められてきた。ドイツのシーメンスウエスチングハウス社が2007年の商用化を目指して開発を進めている。

 一方で,SOFCの利点を1k~数Wレベルの小型電源に活かそうという検討も始まっている。そのために作動温度を下げる工夫が活発化してきており,PEFC(固体高分子型燃料電池)に対抗して,自動車のAPU(補助動力源)や家庭用・業務用コージェネレーションシステムに使おうとしている。

「ダイレクトハイドロカーボン」の可能性

 自動車用APUやコージェネレーションシステム向けのSOFC試作機では,天然ガスやガソリンなどのハイドロカーボンを燃料として使い,いったん外部の改質器でH2とCOの混合ガスにしてセルに供給している。COを含んでいても触媒が劣化しないことから,PEFCほどにはCOを除去して水素ガスの純度を高める必要ないことから簡易な改質器で済むというメリットがある。

 さらに,燃料を内部改質するという特徴を活かして,ハイドロカーボンを燃料として直接投入し,改質反応と電極反応を同時に起こさせる,「ダイレクトハイドロカーボン燃料電池」を開発しようという機運も高まっている。

 改質器をまったく使わずにダイレクトに燃料を供給できれば小型化やコスト面でメリットは大きいが,問題は直接燃料をセルに送り込むと電極に炭素が析出してしまう点である。この炭素析出は,ハイドロカーボンと水素と酸素がある一定の割合で存在すると発生することが理論的に分かっており,ハイドロカーボンを水の存在なしに供給したときにこの比率に近づく。そこで各研究機関は,炭素析出をどう防ぐかの検討を進めている。

ニッケル-セリア系で+600℃以下

 SOFCの作動温度を低温化する開発も最近進展してきている。例えば,ホソカワミクロンの研究開発子会社であるホソカワ粉体技術研究所(本社大阪府枚方市)はニッケル-セリア(Ni-SDC)系の新しい燃料極を開発し,+600℃以下の低温で作動させることに成功した。具体的には,セリア系材料(SDC:Sm2O3ドープCeO2)を電極材料に使うとともに,独自のメカノケミカルボンディング(MCB)技術を適用することにより,ニッケル-セリア(Ni-SDC)系燃料極の高次構造制御に成功したという。

 通常,電極を構成する粒子を微細化した時,分散が極めて難しく,加えて電極を作製する時にニッケル(NiO)粒子が成長するという問題が発生する。同社独自のナノ粒子技術を活用して,電極構成部材であるNiO粒子とSDC粒子のナノレベルの微細化と高分散化という相反する問題点を解決した。加えて,多孔構造を最適制御することで,Ni-SDC燃料極の高次構造制御を達成した。このことにより電極反応活性が高まり,低温での電極性能が向上したのである。

直径1mm以下のマイクロSOFC

 また産業技術総合研究所は,+600℃以下で作動が可能な直径1mm以下の円筒型マイクロSOFCを開発した。作製方法はまず燃料極としてニッケル-セリア系材料「NiO/CGO(CeGdO2)」を押し出し成形する(図1)。次に外側に電解質としてCeGdO2をスラリーコート法で塗布する。最後に空気極としてランタンコバルト-セリア系材料「LSCF(LaSrCoFeO3)」を塗布してセルを作製する。

 試作した直径1.6mmのセルを+450℃~+570℃の範囲で作動した場合,0.17W/cm2~1W/cm2の出力密度を達成している。この値は,これまでのセリア系セラミックスを用いたSOFCの電極面積当たりの出力密度としては世界最高だとしている。

ニュース・関連リンク

米Mesoscopic Devices社,TOTO製セルを採用したポータブル燃料電池を2007年に発売

(Tech-On!,2006年11月22日)

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(Tech-On!,2006年11月17日)

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(Tech-On!,2006年11月1日)

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(Tech-On!,2006年1月26日)

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2008年の実用化を目指し「第2世代」の燃料電池が続々,多彩な燃料や固体酸化物型が候補に

(日経エレクトロニクス2005年12月19日号,Leading Trends)

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(Tech-On!,2005年11月24日)

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(Tech-On!,2005年11月17日)

低温作動の小型SOFC DMFCとの競合領域へ,TOTOが2008年度にも実用化

(日経エレクトロニクス2005年10月24日号,What's New)

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(Tech-On!,2005年10月6日)