ホソカワミクロンの研究開発子会社であるホソカワ粉体技術研究所(本社大阪府枚方市)はニッケル-セリア(Ni-SDC)系の新しい燃料極を開発し,600℃以下の低温で作動させることに成功した。同社は固体酸化物型燃料電池(SOFC)の電極材料を中心に研究開発を進めている。

 SOFCは,作動温度が通常800~1000℃と高いという特質があり,これまで起動時間が1日程度と長い,高温で構成部材が劣化する,高価なセラミック材料を使う--など,解決すべき問題点が指摘されてきた。

 今回の成果は,SOFCの作動温度を600℃以下に大きく低下させるもので,立ち上げ時間を短縮し,信頼性を向上できる。また,使用材料の選択肢を広げることができ,安い金属材料を使えることが低コスト化につながる。

 ナノ粒子専門の研究機関であるホソカワ粉体技術研究所は,独自のメカノケミカルボンディング(MCB)技術などを開発してきた。燃料電池開発については,設立当初より,将来有望な分野であるSOFCに的を絞り,その高性能化に取り組んだ結果,2003年2月には,MCB技術を適用して燃料極などのナノ粒子分散構造の最適化に成功し,700℃の低温作動までは実現していた。

 今回は,イットリア安定化ジルコニア(YSZ)系と較べてより活性と導電性が高いセリア系材料(SDC:Sm2O3ドープCeO2)を電極材料に使うとともに,MCB技術を適用することにより,ニッケルセリア(Ni-SDC)系燃料極の高次構造制御に成功した。このNi-SDC系燃料極を基板とするSDC薄膜電解質の支持膜型セルは,600℃で作動する時に,従来の高性能標準セル(Ni-YSZ系燃料極/YSZ/LSCF)が700℃で作動する時と比べても同等の発電性能を持っている。

 通常,電極を構成する粒子を微細化した時,分散が極めて難しく,加えて電極を作製する時にニッケル(NiO)粒子が成長するという問題が発生する。同社独自のナノ粒子技術を活用して,電極構成部材であるNiO粒子とSDC粒子のナノレベルの微細化と高分散化という相反する問題点を解決した。加えて,多孔構造を最適制御することで,Ni-SDC燃料極の高次構造制御を達成した。このことにより電極反応活性が高まり,低温での電極性能が向上した。

 本成果の一部は,本年度から始まったNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「セラミックリアクター開発プロジェクト」の中で実現した。同プロジェクトは,産業技術総合研究所の中部センターが中心となり,セラミックメーカー数社が参画するプロジェクト(2005~2009年)であり,自動車用補助電源(APU)や小型/ポータブル電源などの次世代型SOFCの実現を目指すもの。本成果の一部は,1月25~27日に東京ビッグサイトで開かれる「FC-EXPO2006」に発表する。