産業技術総合研究所と日本ガイシは,ハニカム構造を備えた固体酸化物型燃料電池(SOFC)の製造技術を確立した(図1)。15mm×15mmの断面積の中に256個のセルを要するため,発電モジュールを小型化できる。

 さらに,これまでのSOFCは急速に加熱したり冷却したりすると,熱応力でセルが破損してしまう恐れがあったが,今回開発した構造体は急速な加熱や冷却に対する試験を実施しても壊れないとしている。そのため,室温から数分以内の急速起動や急速停止にも対応可能で,自動車の補助電源(APU)や家庭用燃料電池,携帯可能な電源として適用できるとしている。

 ハニカム構造を備える基材は,自動車の排気ガス処理用の触媒坦持体として利用されているハニカム担体と同様に押出法で製造する。基材には空気極として研究開発が進んでいるマンガン系ペロブスカイト材料(LSM)を使用した。

 この基材に,スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)やセリア系酸化物(GDC)などの電解質となる材料をスラリーコート法で塗布し,乾燥させてから1300℃で焼成する。続いて,燃料極となるセリア系酸化物を含むニッケル(Ni-GDC)をスラリーコート法で塗布して1100℃以上で焼成する。

 その結果,基材の孔の壁面に厚さ20μmの電解質膜と厚さ10μmのNiO-GDC層の燃料極が形成され,燃料電池として機能する。加湿水素を燃料に試作したSOFCの発電特性を測定したところ,700℃で出力密度が230mW/cm2とLSM-GDC系SOFCとしては世界最高レベルの発電性能を達成した(図2)。

 産総研では今後,ハニカム構造体への空気や燃料を供給する方法や温度制御の検討をはじめ,複数のユニットを連結した際に出力損失を抑える技術開発などを進め,将来的には容積1Lでおよそ2kWの出力を目指すとしている。なお,今回の開発は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「セラミックリアクター開発」の中で実施している。

図1 ハニカム構造を備えるSOFC
図1 ハニカム構造を備えるSOFC
[画像のクリックで拡大表示]
図2 セルの出力密度
図2 セルの出力密度
[画像のクリックで拡大表示]