年末なので,担当しているテーマ・サイトで今年よく読まれた記事の並び(いわゆるランキング)を見て何か書くように,と言いつかりました。編集長の命令なので何か書かなくてはなりませんが,ランキングを見てもランキングに沿った感慨がわいてきません。ですので,関係のないことを書いてお茶を濁そうと思います。読者の皆様にスクロールの手間をおかけしないよう,ランキングはこの段落のすぐ下に載せておきます。

▼ 2008年「産業動向オブザーバ」記事ランキング

順位記事タイトル日付
1【IPSアルファ続報】液晶新工場に見る,松下の三つのジレンマ02/15
2「権利者から見ると文化庁案が最大限の妥協」――CPRA 椎名和夫氏に聞くダビング10問題の真因06/18
3セガが希望退職者を募集,Wiiや大型テレビの普及でゲームセンター低迷02/08
4三菱電機,携帯電話機事業から撤退03/03
5Samsung Techwin社,ついにデジカメのシェアで3位02/19
6iPod nanoでバッテリー火災事故,経産省が公表03/11
7【続報】「DIGA」シリーズの不具合,発生は11機種で約300件07/04
8「ビッグスリー」が破綻した場合,「短期的にはマイナス,長期的にはプラス」---ホンダ福井社長12/17
9【続報】国内PDP陣営,事実上一つに集約へ03/04
10「あの値段で造る自信はない」「品質を満たせない」---トヨタがインドTata社の低価格車に対してコメント02/05

(集計期間:2008年1月1日~12月24日)

 先週の土曜日,映画館でエンドロールを眺めているとき,スクリーンに「松下電器産業」の文字がせり上がってきて,ほんの一瞬だけですが「あれ?」と思いました。「パナソニック」じゃないの,という意味での「あれ?」です。映画制作に協力したのが社名変更前だったのだろうと,すぐに合点がいきましたが,一瞬は確かに違和感を持ちました。

 映画の公式サイトによれば「撮影機材はPanasonic AG-HPX555。カードに記録された撮影素材を,編集の堀が次々とハードディスクに取り込みつつ脚本通りにつないだ監督ラッシュをもとに,編集,カラコレ,ダビング,キネコ」という具合に松下製品を使ったようです。この映画の撮影が2008年6月。同年10月1日に松下電器産業は名称を「パナソニック」に変更します。


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 一方,米国サブプライム・ローン問題が日本の実体経済にも影響を及ぼし始めたとされるのが10月頃。その後は日を追うごとに経済環境は悪化してきました。中期経営計画の見直し,不採算事業からの撤退,人員削減,拠点の整理,新工場の着工や稼動の延期,生産調整,買収案の撤回など,その影響のほどを思い知らされるようなニュースが次々に飛び込んできました。大手企業が業績予想を発表から2カ月と経たずに修正するような例も,今は珍しくありません。

 エンドロールに引っかかりをおぼえたのは,だからだと思います。晩秋から冬にかけて,あまりにたくさんのことがありすぎて,秋以前のことが実際よりも過去のことに感じられている。わざわざ文にしてみると大げさですが,そういうことだった気がします。言い訳になりますが,ランキングに添える文を書くよう言われたのに,どうもそうしづらいと感じる理由も,一端は同じところにあるのかもしれません。


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 2008年を漢字一文字で表すと「変」なのだそうです(日本漢字能力検定協会の発表資料)。米国大統領選では「change」をスローガンにしたバラク・オバマ氏が当選しましたし,経済環境の変化が非常に鮮明な一年でもありました。だから今年は「変」。なるほど,と頷けます。ですが,もしも自分が選ぶ立場にあったなら「急」としたと思います。「急変」の「急」です。「変わる」という述語よりも「急に」という修飾語のほうを敢えて採りたい。それほど今年の景気減退は,実に「急」だったと思うのです。


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 米国経済の失速が自社の経営にも影を落とすであろうことは,日本メーカーの経営トップも早い段階で予期していました。2007年10月~11月頃,決算会見での質問の定番は「サブプライムの影響は(あるのか,ないのか,影響規模は)?」でした。なんだか,これもはるか昔のことのようです。当然ながら最近の会見でそんなことを聞く記者はいません。さて当時,聞かれた経営者は概ね,こう答えていました。「影響はもちろんあるはずだ。ただ,いつごろ,どの程度,という予測はまだ立たない」。その後もついこの夏頃まで,米国の金融危機については,日本市場への直接の影響を憂うより,為替差損を危惧したり,日本メーカーが米国市場で被る影響がいかほどか,というニュアンスで質疑応答がなされていました。自動車や電子機器の需要が全世界的にこうも著しく減退するようなことは,経営者も記者も想定していなかったように思います。経済環境が「変」わることは早くからわかっていた。ただ,ここまで「急」だとは想像しえなかった。こういう感覚を持つ人は少なくないのではないでしょうか。


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 例年通りなら今時分は,年末休みに向けて製造業のニュースは減っていく時期ですが,今年は暮れが押し迫っても企業の緊急会見が引きも切りません。変化のスピードで環境のほうに先行されてしまった感のある各企業は今,巻き返しを期して新たな経営施策を打ち出しています(オススメ記事:日本電産の場合パナソニックと三洋電機の場合ホンダの場合)。不況だ不況だと煽って消費マインドに悪影響を及ぼす「マスゴミ」が,とは最近よく言われることですが,2009年は経済回復のきざしや,復活に向けた企業の取り組みを多数,お伝えできるのではないかと思います。

 最後に,写真のキャプションをここにまとめて記します。この記事につけた4枚の写真は,いずれも渋谷駅に程近いところで先週,撮ったものです。歩きながらなんとはなし,景色に違和感をおぼえたので,何が違っているのだろうと少し意識的に街を眺めてみました。視線を普段より少し高いところへ向けてみて違和感の正体を知ることができました。ビルの屋上で広告が消えているのです。残された骨組や白い板が,冬空にやけに鮮やかでした。広告が掲示されていたときはろくに見なかったし,撤去されたのが何の広告であったかも思い出せないくらいですが,今はここに色彩が戻るのを待ちたい気分で,通りかかるたび見上げています。