「6月2日午前4時」に予定されていた地上デジタル放送などの新しい著作権保護ルール「ダビング10」への運用切り替え実施が,極めて困難になった。2008年5月13日に行われた,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会傘下の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委)」の第37回会合で,メーカーの委員が明らかにした。

 日立製作所の田胡修一委員は,「前回の会合でお願いしたとおり,ダビング10の期日実施に向け,メーカーは追い詰められている。準備や周知などを勘案すると、デッドラインは本日である。今回の会合で運用切り替えの実施を合意し,本日中に確定してほしい」と訴えた。田胡委員はまた,電子情報技術産業協会(JEITA)からデジタル放送推進協会(Dpa)に対し,6月2日の運用切り替え実施を,本日中に確定することを要請する文書を送ったと明かした(Tech-On!関連記事1Tech-On!関連記事2)。

 こうした訴えにも関わらず,結論として,今回のデジコン委ではダビング10への運用切り替え実施の合意はできなかった。田胡委員の説明が正しいとすると,ダビング10の期日実施は絶望的な状況になった。ただし,Dpa技術委員会委員長でフジテレビの関祥行委員は「Dpaとして6月2日の運用切り替え予定を変更する考えは今のところない」と,委員会後の本誌の取材で述べている。

消費者として賛否を申し上げる立場にない

 田胡委員の発言に対し,生活経済ジャーナリストの高橋伸子委員は,「6月2日という実施日の決定に消費者として関与しておらず,賛否を申し上げる立場にない」,東京都地域婦人団体連盟の長田三紀委員は「消費者としては早いほうが良いと思うが,実施日として6月2日が良いのかどうか判断基準がない」と,いずれも今回会合での合意に難色を示した。なお,主婦連合会の河村真紀子委員は今回,欠席した。

 デジコン委の主査である慶応義塾大学の村井純委員は,「6月2日という期日は地上デジタル放送機器の普及を狙える(8月に開催予定の北京五輪という)イベントを意識したと記憶する。合意が難しくなっているのは,ここではない場の議論が合意形成に影響を与えているから。そのため,ほかの場の議論について詳しい委員を集めて話し合ってもらうのが有効と言うことで,フォローアップWGを作った経緯がある。引き続きWGで合意形成に向け話し合ってほしい」と述べ,5月27日もしくは29日に予定されるデジコン委の次回会合までに,まずはフォローアップWGでの合意形成を目指す考えを確認した。なお,村井主査が言う「ここではない場,ほかの場」とは,私的録音録画補償金制度の抜本的な改定を議論している文部科学大臣の諮問機関である文化審議会 著作権分科会傘下の私的録音録画小委員会(録録小委)を指すと思われる。

 ダビング10への移行は,デジコン委における議論を基に,2007年8月に公表したいわゆる「第4次中間答申(デジタル・コンテンツの流通の促進に向けて)」に基づき,同委の合意のうえで実施される手はずになっている(第4次中間答申に関する総務省のプレスリリース)。

 だが,この報告書に記された実施の条件「クリエーターが、適正な対価を得られる環境を実現する」に基づいて,ダビング10対応の録画機器に対して,私的録音録画補償金制度の適用を求める権利者側委員と,「同制度と対価の還元は本来無関係」と主張するメーカー側委員の対立を埋められず,実施に向けた合意ができない状態が続いている。

 2008年5月8日に行われた録録小委の今期第2回会合では,文化庁から,ダビング10対応の録画機器を含む対象機器の大幅な拡大案が提示された。この案に対して権利者側の委員はおおむね受け入れの意を示したが,JEITAから派遣された二人の委員を含むメーカー側の委員と,消費者側の委員から強い反対意見が出されており,早期の合意は難しい状況になっている(Tech-On!関連記事3Tech-On!関連記事4)。