ネット端末市場で思わぬ伏兵になりそうなのが,持ち運んで使える簡易型カーナビ「PND」である。価格の安さで市場に受け入れられ,世界中で出荷台数を伸ばしている。iPhoneのルーツが携帯型音楽プレーヤー「iPod」にあるように,PND発のネット端末が生まれても不思議はない。2008年1月開催の「2008 International CES」では,クラリオン米Dash Navigation社が,無線通信機能を搭載してインターネットに接続できるPNDを展示した。

 これまでは,携帯電話機ならば最大3.5型,PNDは4型前後,パソコンならば小さくても7型ほどといった,画面の大きさによる棲み分けがあった。この境界が崩れる兆しがある。PHS事業者のウィルコムは,5型の液晶パネルを搭載した通信端末「WILLCOM D4(WS016SH)」を,2008年6月に発売する注1)。三洋電機は,2008年4月に7型の液晶パネルを備えるPNDを売り出した注2)。パソコン勢では,中国Lenovo Group社が4.8型画面のMID東芝は5.6型画面のUMPCを,それぞれ2008 International CESで展示した。

注1)ただしこの端末はOSに「Windows Vista Home Premium」を利用しており,「通信事業者が販売するパソコン」と言った方が適切かもしれない。

注2)この製品にはインターネット接続機能はないが,WWWサイトで検索した地点のデータを,SDメモリーカードを介して登録する機能がある。

競争のルールが変わる

 こうした機器の市場が本当に予想通りの市場を築くのか,それぞれの機器は市場で共存するのか競合するのかなど,現時点で不透明なことは多い。一つ言えそうなのは,これから広がるネット端末の市場では,既存のパソコンや携帯電話機の市場の常識が当てはまらないことである。ノート・パソコン市場で存在感の薄かったASUSTeK社や,携帯電話機の経験が皆無だったApple社が一躍時代の寵児になったことが,それを暗示している。

 今生まれつつある市場では,米Microsoft Corp.やIntel社といったパソコン時代の覇者が勝つとは限らない。日本メーカーにも十分チャンスはある。ただし,新しい市場で成功を望むならば,ユーザーの要求を冷静に見極め,必要に応じて開発体制さえ変えていかなければならないだろう。過去の成功体験や体制に縛られたままでは,勝利はおぼつかない。それどころか,相手は日本メーカーが不得手とする安価な製品である。最悪の場合,携帯電話機やパソコンの市場以上に,国内勢の居場所はなくなってしまうだろう。