拠点のトップが反対するケースは珍しくない
この事例のキーパーソンは、丁寧なコミュニケーションで第1工場の工場長の心を動かした総務担当役員といえるでしょう。
この役員は後に、こう話してくれました。「ここで着手できなかったら、恐らく第1工場の電力調達の見直しはずっと手付かずのままになるだろうという予感がありました。ここが正念場に違いない、本腰を入れてやってみようと思ったんです」。
経営トップが電力調達改革を進めたいと考えていても、拠点のトップが反対するケースは珍しくありません。
そんな状況で電力調達の最適化を実現するには、反対する側に電力自由化という時代の変化を認識してもらうこと、電力調達改革によって得られるメリットを客観的に提示すること、拠点の立場に配慮して不安を払拭しつつ、誠意ある態度で粘り強く働きかけることなどがポイントになります。
この総務担当役員は、特に工場長の心情に配慮しました。職人気質の工場長に対して、「他の電力会社の見積もりを取ることで、現在契約中の電力会社が目くじらを立てることはありません。だから見積もりだけ取ってみましょう。見積もりを見て、今の電力会社の方が好条件であれば、そのまま契約を継続すればいいんです」と懇切丁寧に説明して、工場長の認識を改めさせたのです。
そのほか、工場長や現場担当者の不安を取り除くべく、懸念点を徹底的に洗い出し、電力会社に質問を重ねたことも納得感の醸成に繋がりました。
大手電力会社系新電力で安心を担保しつつ、コストメリットも
この事例には、もう1 つ、ポイントがあります。切り替え先に大手電力会社系列の新電力を選んだことです。
地域の大手電力会社か新電力かの二者択一でなく、大手電力会社系の新電力という選択肢もあるのです。第1工場の工場長のように切り替えに非常に慎重なタイプや、保守的に考えるタイプの需要家の場合、大手電力会社のブランドで安心を担保すると同時に、新電力に切り替えることで得られるコストメリットも追求するわけです。
一度、電力契約を切り替えてみて、何も問題がないということが分かれば、翌年からはその他の新電力も選択肢に入れることができるかもしれません。