2024年度は4月から、4年前の2020年に実施した第1回目の容量市場の結果に基づく容量拠出金の支払いが始まる。新電力の中には容量拠出金の負担を電気料金に転嫁する動きが広がりつつある一方で、大手電力には転嫁の動きがみられない。容量市場が小売競争をゆがめることは本来、許されないことだ。

(出所:123RF)
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 容量拠出金を負担するのは一般送配電事業者と小売電気事業者で、電力広域的運営推進機関を介して、落札した発電事業者に分配される。

 小売電気事業者が2024年度に負担する容量拠出金の総額は1兆4650億円(経過措置控除後)に上る。小売電気事業者が個別に負担する金額は負荷率などで異なってくるが、2024年度については3円/kWh程度との試算もある。決して小さくない負担だ。仮に純粋なコスト増要因となれば新電力の経営は大きく圧迫される。

 問題は容量拠出金の妥当性だ。

 正確なところは、2024年度が終わってみないと評価は難しい。容量市場の約定は2020年時点における2024年の需要想定(kW)と発電事業者の応札で決まる。フタを開けてみないと2024年度のスポット市場の状況などを含む本当の需給はわからないからだ。

 ただ、過去のJEPX(日本卸電力取引所)スポット市場の実績に照らせば、おおよその見当はつけられる。そこで今回は2024年度の容量拠出金の妥当性を2023年度の実績から検証してみたい。

 2024年度に適用される第1回容量市場の約定価格は年額で1万4137円/kWだった。月額平均では1178円/kWになる。

容量市場は金融の「オプション取引」の変形

 この妥当性を評価する手法として金融理論を用いる。

 実は、容量市場は金融派生商品(デリバティブ)の一種である「オプション取引」の変形と言える。手順や形式に違いはあるが本質的な意味合いは共通している。容量価値(kW価値)は電力のエネルギーとしての価値(kWh価値)から派生した価値なのである。

 第1回容量市場の約定直後の2020年11月、本コラムにおいて「容量市場、初回結果を金融理論から検証する」と題する記事で第1回約定価格の水準を評価した。

 このときは2019年までのスポット市場の水準に照らして2024年度の容量市場価格を評価した。今回は2023年の、つまり容量拠出金の受け渡しの前年度の実績を踏まえた評価となるため、その分、分析の確度が高くなる。

 金融理論に準じた評価手法の詳細については前掲記事を参照してほしいが、オプションとは「権利」を意味する。

 そして、オプション取引とは金利や為替、株式、原油や金などで、将来のあらかじめ定められた期日や期間に、現時点で取り決めた価格で「売買する権利」を売買する取引をいう。

 その際、権利の買い手は売り手に権利の対価として「オプション料」を支払う。将来時点の市場価格水準であるフォワード価格からの乖離(かいり)とその発生確率を想定して、オプション料の金額が決まる。そして、あらかじめ決めた(売買する権利が発生する)取引価格のことを「権利行使価格」(あるいは単に「行使価格」)という。

 容量市場に当てはめれば、小売電気事業者は「電力を買う権利(コールオプション)」の買い手で、発電事業者は「電力を買う権利」の売り手という関係になる。そして、「電力を買う権利」の対価(オプション料)が容量拠出金となる。問題は、オプション料としての容量拠出金の金額が妥当かどうかだ。

 実際の容量市場は小売電気事業者に将来の発電能力(電力を買う権利)の買い付けを義務付けるものだ。買い手と売り手の合意でオプション料が決まる通常のオプション取引とは異なり、容量拠出金は一定の手順で国が決める(実務は広域機関、決定は資源エネルギー庁)。

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