2023年12月13日、資源エネルギー庁は2回目となる洋上風力公募(以下ラウンド2、R2)の入札結果を発表した。4エリアのうち3エリアの落札者が決まったが、参加した9事業者のうち6者がゼロプレミアム価格である3円/kWhで入札したことが明らかになった。R1に続き、価格評価点が落札者決定に大きな役割を果たした。低価格決着をもいとわない体力に自信のある事業者でないと競争に参加できないことを意味する。果たして3円/kWhは評価できるのだろうか。

(出所:123RF)
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 ラウンド2の対象4エリアのうち、3海域は、「秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖」(以下男鹿等)、「秋田県八峰町・能代市沖」(以下八峰等)、「新潟県村上市・胎内市沖」(以下村上胎内)である。いずれもモノパイル方式で、資源エネルギー庁の調達価格等算定委員会が定めた「供給上限価格」は19円/kWhだ。供給上限価格とは、入札時の上限価格を意味する。「長崎県西海市江島沖」(以下西海)のみジャケット方式で、供給上限価格は29円/kWhだ。

 4海域のうち、今回落札者が決まったのは3エリアで、港湾利用で調整を要する八峰等は2024年3月までに決定が持ち越された。

 男鹿等は3陣営、村上胎内は4陣営が入札に参加したが、応札価格は7社中6社がゼロプレミアムである3円/kWhだったため差がつかず、結果として運転開始時期が最も早い事業体が採択された。

 男鹿等はJERA、伊藤忠商事、Jパワー、東北電力のコンソーシアム。後者は三井物産、独RWE、大阪ガスのコンソーシアムである。西海は2事業体が入札に参加したが、事業実現性評価点で劣ったものの価格評価で28点差をつけた住友商事、東京電力リニューアブルパワーのコンソーシアムが採択された。

モノパイル方式は9割が3円入札
モノパイル方式は9割が3円入札
表1●ラウンド2入札結果の概要(出所:資源エネルギー庁資料を基に作成)
(注)事業者:コンソーシアム、参加者:公募参加事業者、価格:価格点、事業:事業実現性評価点、運開時期:運転開始予定時期
(注2)価格120点は3円/kWh以下での入札、事業点は修正後合計点
(注3)JERA等:JERA・伊藤忠商事・Jパワー・東北電力、三井物産等:三井物産・RWE・大阪ガス、住友商事等:住友商事・東京電力リニューアブルパワー

洋上FIP制度は完全市場化ルール

 ここで、R2の入札ルールのポイントを解説する。定性評価の「事業実現性評価点」は各項目合計で120点であり、最高点を獲得した事業者は120点を獲得できる。価格評価は、R1はFIT制度(固定価格買取制度)を採用していたが、R2からFIP(フィードインプレミアム)制度へ変更となり、FIP価格で競うことになった。最高評価点は定性と同一の120点である。

 FIP制度とは、FIT制度の後継となる再エネ電源への助成制度だ。FITは20年間、固定価格で一般送配電事業者が買い取る制度であるのに対し、FIPは再エネ発電事業者が自ら売り先を見つけなければならない。JEPX(日本卸電力取引所)スポット市場に売電した場合、政府が定める基準価格より市場価格が安ければ、乖離(かいり)分をプレミアムとして受け取ることができる。プレミアムはFITの再エネ賦課金と同様に国民負担となる。

 洋上風力公募の場合、FIPの基準価格を入札することになる。政府は入札上限価格と、プレミアム付与がほとんど期待できない「ゼロプレミアム水準」を定めている。ラウンド2の場合、入札上限価格(供給上限価格)はモノパイル方式で19円/kWh、ジャケット方式で29円/kWh。ゼロプレミアム水準は3円/kWhだ。

 つまり、落札価格より市場価格が下回っていれば、プレミアムを受け取ることができる。一方、3円以下で応札した場合はプレミアムを受け取ることはできず、補助ゼロの完全に自立した電源としての運用となる。

洋上風力公募はFIP制度の基準価格を入札する
洋上風力公募はFIP制度の基準価格を入札する
図1●FIP制度における入札価格の考え方(出所:調達価格等算定委員会、2022年11月4日資料)

 3円/kWhが実質、落札の下限価格なので、3円で入札すれば価格評価は満点の120点を獲得できる。2021年実施したラウンド1は、三菱商事が公募した3エリアすべてにおいて他社を圧倒する低価格で落札したことから、ラウンド2は落札には価格点は満点が決め手になるという理解が広がり、「3円入札」に強い誘因が働いた。

 実際、モノパイル方式の応札結果を見ると、男鹿等および村上胎内は、応札した7陣営のうち6陣営が3円で入札している。一方、上限価格29円のジャケット方式の西海は、モノパイル方式コストが高いので、さすがに3円入札はなく、落札価格は22.18円だった。ただ、点数差から試算すると競合相手より6.82円低い価格だったとみられる。

 日本の洋上風力は一気に完全市場化へ移行したのである。

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