電気料金を大幅に削減した企業の実例から、成功のポイントを紹介する連載。第2回で取り上げるのは、売上高200億円の中堅製造業B社です。年間電気料金は2億円かかっていましたが、電力会社の契約を見直すことで、10%に当たる2000万円のコスト削減に成功しました。
 B社が苦労したのは、電力会社を変えることに猛反対していた工場長の説得でした。長年付き合いのある大手電力会社との契約を見直すことに不安を感じる現場は少なくありません。B社が電気料金を安くできたポイントを見ていきましょう。

(Adobe Stock)
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 国内に2 拠点を持つ中堅製造業のB 社。売上規模は200億円で、年間電気料金は約2億円です。主力工場である第1工場では特別高圧の電力を利用しています。

 経営トップはかねて電力契約の抜本的な見直しに着手したいと考えていました。ですが、その一方で電力会社を切り替えることには、目に見えぬ不安を抱いていました。その時に契約していた大手電力会社から、「特別高圧は切り替えない方が無難」だと言われていたことが、その理由でした。

 しかも、第1工場の工場長は電力契約の見直しに断固反対の立場を取っていました。「どうしても電力会社を変えるというなら、何か起きても自分は責任を取らない」とまで主張したのです。

 契約先の電力会社とは長い付き合いで、工場長には電力会社と仲間意識があったのかもしれません。電力会社を切り替えて、何かトラブルが起きたら自分の責任になってしまうのではないか。トラブルを収束するために、元の電力会社に頭を下げて契約を戻してもらうなど、自分が後始末をしなくてはならなくなると考えたのかもしれません。

 ただし、もう1カ所の拠点である第2工場では、コスト削減の可能性があるのであればやるべきだと考え、先んじて電力契約を見直していました。数年前に電力の調達先を地域の大手電力会社から新電力に変更したのです。電気料金の削減に加えて、電力契約の切り替えが操業に何ら支障がないことも確認済みでした。

 そんな第2工場の現場も、当初は長年契約していた電力会社を変えることにためらいがあったといいます。

本社役員が工場長を粘り強く説得

 本社の総務担当役員は、第2工場での実績を元に、第1工場の工場長の説得を試みました。

 粘り強く説得を続けたところ、第1工場の工場長の考え方も徐々に軟化。「電力会社を切り替えるかは判断できないが、他の電力会社から見積もり提案を受けてみるところまでは良しとする」と認めるに至ったのです。

 いざ見積もり提案を受けてみると、第1工場の契約を大手電力会社系の新電力に切り替えることで、全社で年間2億円かかっていた電気料金を、10%に当たる2000万円安くできることが分かりました。

 そこで、電力契約の切り替えを納得してもらうべく、第1工場の工場長や生産現場の担当者に、どんなに小さな疑問や懸念も残さないよう質問事項を出してもらうことにしました。この質問に対して、切り替え先候補の電力会社に丁寧に回答してもらうというやりとりを何度も繰り返したのです。

 結果として、工場長や生産現場の担当者の不安を解消するとともに、第1工場全体の電力への理解が深まり、切り替えの了解を取り付けることができたのです。

 電力会社の切り替えを終えた第1工場は、何の問題もなく稼働を続けています。総務担当役員も、「問題なく切り替えられることが改めてわかり、ほっとしています」と安堵の様子です。

拠点のトップが反対するケースは珍しくない

 この事例のキーパーソンは、丁寧なコミュニケーションで第1工場の工場長の心を動かした総務担当役員といえるでしょう。

 この役員は後に、こう話してくれました。「ここで着手できなかったら、恐らく第1工場の電力調達の見直しはずっと手付かずのままになるだろうという予感がありました。ここが正念場に違いない、本腰を入れてやってみようと思ったんです」。

 経営トップが電力調達改革を進めたいと考えていても、拠点のトップが反対するケースは珍しくありません。

 そんな状況で電力調達の最適化を実現するには、反対する側に電力自由化という時代の変化を認識してもらうこと、電力調達改革によって得られるメリットを客観的に提示すること、拠点の立場に配慮して不安を払拭しつつ、誠意ある態度で粘り強く働きかけることなどがポイントになります。

 この総務担当役員は、特に工場長の心情に配慮しました。職人気質の工場長に対して、「他の電力会社の見積もりを取ることで、現在契約中の電力会社が目くじらを立てることはありません。だから見積もりだけ取ってみましょう。見積もりを見て、今の電力会社の方が好条件であれば、そのまま契約を継続すればいいんです」と懇切丁寧に説明して、工場長の認識を改めさせたのです。

 そのほか、工場長や現場担当者の不安を取り除くべく、懸念点を徹底的に洗い出し、電力会社に質問を重ねたことも納得感の醸成に繋がりました。

大手電力会社系新電力で安心を担保しつつ、コストメリットも

 この事例には、もう1 つ、ポイントがあります。切り替え先に大手電力会社系列の新電力を選んだことです。

 地域の大手電力会社か新電力かの二者択一でなく、大手電力会社系の新電力という選択肢もあるのです。第1工場の工場長のように切り替えに非常に慎重なタイプや、保守的に考えるタイプの需要家の場合、大手電力会社のブランドで安心を担保すると同時に、新電力に切り替えることで得られるコストメリットも追求するわけです。

 一度、電力契約を切り替えてみて、何も問題がないということが分かれば、翌年からはその他の新電力も選択肢に入れることができるかもしれません。

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