はっきり言います。どんな企業でも電気料金は安くなります。電力全面自由化を経て、正しく買えば安くなる時代が、既に到来しています。この「正しく買えば」というのがポイントです。電力の買い方にはセオリーがあるのです。
 ですが、残念なことに、正しい買い方を知らないどころが、電力契約の見直しに手を付けたことすらない企業がまだまだ多いのが実情です。
 そこで、この新連載では電気料金を大幅に削減した企業の実例から成功のポイントを紹介します。正しい電力調達方法を学び、コスト削減を実現してください。第1回は、電力の契約見直しで年8億円の削減に成功した大手部品メーカーの事例です。

(出所:Adobe Stock)
(出所:Adobe Stock)

 全国に6つの事業会社を持つ大手部品メーカーのA 社。生産工程で相当量の電力を消費するため、年間電気料金は200億円に上ります。A社の売上高は約7000億円。電気料金は売上高の3%に相当します。

 大半の企業で電気料金は販管費の中で最も大きな割合を占めています。言い替えれば、電力の契約を見直し電気料金を削減すれば、一気にコスト削減を実現できるのです。

 A社の経営トップには、かねて電気料金が高いという問題意識がありました。そこで、電力自由化を契機に、グループ全体の電力調達を本部が一括して行う方式に変更しようと号令をかけました。A社はそれまで、拠点ごとに生産管理の担当者などが電力を調達していました。拠点ごとにバラバラの契約を一本化すれば、料金を抑えられるのではないかと考えたのです。

 ところが、このアイデアは、うまくいきませんでした。工場ごとに生産している製品が異なり、保有している設備もバラバラという事情から、拠点ごとに独自の電力調達ルールを作っていたためです。

 ある拠点は、コージェネレーションシステム(熱電併給)を導入し、生産工程で電力と熱を使っていました。またある拠点では、特別高圧の受電のバックアップとして予備線を引いていました。それぞれの生産現場が電力会社に相談しながら、独自に電力を調達していたのです。

 生産現場には、「本部の都合で勝手に電力調達方法を変更されては困る」という思いがありました。ですから、経営トップが号令をかけても、動こうとはしませんでした。

 一旦は電力調達の見直しを諦めた経営トップでしたが、その後、原材料費が高騰し、コスト削減は待ったなしの状態になったことで再び動き出しました。

トップダウンで調達チームを作り、権限を付与

 今度は各拠点に号令をかけるだけでなく、グループ全体で部門横断型の調達専門チームを立ち上げることにしました。さらに、調達チームと経営企画部門を一体化し、電力調達をゼロから見直す「電力調達改革」を実行する権限を与えたのです。

 この調達チームは早速、電力の調達先を検討し始めました。まずは、過去に何らかの取引実績がある電力会社やガス会社などのサプライヤーを幅広く調達先候補としました。

 次に、電力会社やガス会社に素直にコスト削減の相談を持ちかけました。電力会社やガス会社の営業担当者や技術部隊に相談に乗ってもらったのです。

 当初、調達チーム内には「電力会社にとっては、買い叩かれ売り上げや利益が減る話なので、相談すると嫌われてしまうのでは」という不安の声がありました。しかし、いざ相談してみると、それは全くの杞憂でした。

 「電力とガスをどう組み合わせると最適になるか」、「契約容量は見直せる余地はないか」といった技術的な相談から入ったことも奏功し、サプライヤーからは心配していたような反応は一切ありませんでした。それどころか、自社の営業は二の次で親身になって相談に乗ってくれたのです。

 同時に外部のコンサルタントの助言も仰ぎました。コンサルタントは調達チームに、「これ以上、電気料金は下がらない」「この拠点の電力契約や設備には触れないほうがいいだろう」といった思い込みを排除するようアドバイスしました。

 そこで、調達チームは、常識にとらわれずに電気料金を削減できそうな方法を検討し、優先順位を付けていったのです。

 電力会社から最良な提案をもらうためには、自社のニーズを織り込んだ「RFP」(提案依頼書)が必要です。RFPを作るための要件定義を、多方面の関係者から得たセカンドオピニオンを基に整理していったのです。