今、注目すべきはオーストラリア(豪州)だ。世界有数の石炭産出国であり、これまで環境政策で後れを取っていたが、2022年5月の政権交代で一変。世界最高値の再エネ導入目標を掲げた。2022年末までにこの野心的な目標を実現するための主要な政策を打ち出しており、続々と再エネやストレージ(蓄電設備)、水素などの事業計画が登場している。
 そこで数回にわたり、豪州の脱炭素政策を解説する。初回はエネルギー情勢を概観する。豪州は必要な政策を講じれば高い目標を十分に達成できる状況にあることが分かるだろう。

(出所:123RF)
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[連載] 豪州が目指す脱炭素フロントランナー

 オーストラリアが一気呵成(かせい)に再エネ比率を高め、世界のトップに躍り出ようとしている。2022年5月に9年ぶりの政権交代によって誕生した労働党のアンソニー・アルバニージー政権は、世界で最も意欲的な脱炭素政策を掲げている。

 現在は30%程度の再エネ比率は、2030年度までに82%に高める。これはドイツが掲げる2030年80%削減を超える世界最高値だ。また、石炭火力発電は2040年までにほぼ廃止する方針だ。

 前政権の自由党(国民党との保守連立)は石炭など化石燃料産業などを支持基盤としており、気候変動対策に不熱心と批判されてきた。実際、豪州の2021年の再エネ比率は29%(水力6%を含む)と欧州などに比べて低く、一方で石炭が52%と高い。豪州は脱炭素化に出遅れていた。

 ただ、系統用蓄電池の導入ではトップランナーだ。2017年11月に稼働した米テスラの蓄電池を採用した系統用蓄電池は当時、世界最大規模だった。また、電力市場の運営者であるAEMO(Austrian Energy Market Operator)は系統用蓄電池を正式な慣性力と認定し、世界で初めて本格契約を締結した。

豪州の電力事情は州によって大きく異なる

 詳細を解説する前に、まず豪州の基礎情報を確認しておこう。豪州は、島国ではあるがロシア、カナダ、米国、中国、ブラジルに次ぐ世界で6番目に大きい領土を有し、6つの州と2つの準州から成る。

 6つの州とは、ニューサウスウェールズ州(NSW)、ビクトリア州(VIC)、クイーンズランド州(QLD)、西オーストラリア州(WA)、南オーストラリア州(SA)、タスマニア州(TAS)。2つの準州とは、ノーザンテリトリー州(NT)と首都キャンベラを擁する首都特別地域(ACT)である。なお、ACTはニューサウスウェールズ州内に位置する。

 人口は約2600万人であり、一定の地域に集中している。連邦国家であり、州 の権限は強い。豪州は1901年に6つの自治領が連合・独立し連邦国家を形成したという歴史的背景がある。各州が憲法を制定しており、首相がいて、内閣がある。米国も連邦国家で州の権限が強いが、豪州は州の権限がさらに強大な印象を受ける。

 2021年度の 電力需要は、多い順にNSWが70TWh、QLDが69TWh、VICが53TWh、WAが44TWh、SAが14TWh、TASが12TWh、NTが5TWhと続く。

 州の権限は強いものの、政権政党の方針に強く影響を受ける。こうした事情もあり、地域ごとに電源構成は大きく異なるものの、再エネや蓄電設備の導入により早期脱炭素を目指すという点では一致している(詳細は次回以降に解説する)。図1は、2021年の豪州の電力情勢を州ごとに示したものである。

資源賦存状況に応じた電源構成になっている
資源賦存状況に応じた電源構成になっている
図1●オーストラリアの電力情勢(2021年)(出所:豪州気候変動・エネルギー・環境・水資源省“Australian Energy Update 2022”、青字は著者の加筆)

 2021年の連邦全体での電源構成は石炭51%、ガス18%、風力10%、太陽光12%であり、水力を含む再エネは2020年度の24%から29%へ急拡大中である。東部3州(QLD、NSW、VIC)は石炭が6~7割、SAは3分の2が再エネ、TAS は水力が81%、WA・NTはガスが6~8割と各地の資源賦存状況に応じた構成比となっている。再エネ比率は大きく異なるが、全ての州において前年度に 比べて上昇している。

 豪州の電力システムは、全国大の卸取引市場があり、東・中部6州(VIC、NSW、QLD、SA、TAS)をカバーするNEM(National Energy Market)と、独立系統の西オーストラリア州(WA)とノーザンテリトリー州(NT)で構成する。NEMの中では、SAおよびTASの他州との連系線が細く、天候などによって孤立する懸念がある。

 なお、NEMの運用者はAEMOで、州間連系線のシステム運用も行う。連邦政府の脱炭素方針の核心である再エネ比率(2030年82%)は、NEMベースの数字であり、ロードマップはAEMOが州政府やTSO(送電系統運用者)と連携して策定している。

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