JERA奥田久栄・社長 CEO兼COOのインタビュー後編(前編はこちら)。JERAは日本最大の発電事業者であり、国内の火力発電設備の約5割を保有している。JERAのふるまいが電力市場の競争状況を大きく左右するのが実情だ。では、内外無差別な卸取引をどのように実現するつもりなのだろうか。また、2回目の洋上風力公募で政策補助なしの「ゼロプレミアム水準」の価格で落札した意図についても聞いた。

2023年4月にJERAの社長CEO兼COOに就任した奥田久栄氏
2023年4月にJERAの社長CEO兼COOに就任した奥田久栄氏
(撮影:宮原一郎)

――エネルギーを取り巻く状況が不確実な時代になりました。エネルギーを確実に確保するために、日本には規模の大きなエネルギー事業者が必要です。ただ、公益と私益の線引きが明確ではないため、JERAのふるまいに対して不信感を持つ人もいます。

奥田氏 この話は当社が最も頭を悩ませている問題です。はっきり言っておきたいのは、エネルギー事業において公益と私益は対立しないということです。公益の追求と、企業としての長期的利益の追求が一致するのがエネルギー事業だと考えています。

 かつての米エンロンのように、短期的に利益を獲得したら市場を退出するという発想であれば、公益と私益が対立します。ですが、当社には数年でエネルギー市場から退出しようなどという考えはまったくありません。

 何十年も続く会社にすべく設立しましたし、成長を続けたいとも思っています。そう思う以上は、長期的に利益を上げ続けるビジネスモデルが必要であり、それは公益と一致するはずです。国際競争力のあるエネルギーを安定的に届けるとともに、企業価値を上げていくことは、すなわち公益を果たすことを意味しています。

 公益と私益を対立概念とはとらえていないのですが、個別の問題で見た場合には難しい面もあります。利益が上がらないと企業として存続できないので、有事の時であっても、利益を上げながら安定供給を果たしていく必要があるわけです。

――需給逼迫時にはJERAが不足分の電力を供給するのが暗黙の了解になっています。規模がさほど大きくない大手電力の中には、「LNG(液化天然ガス)を余らせて損失を出すくらいなら、調達量を減らし、いざとなったら融通してもらった方がよい」と考える風潮があるのではないでしょうか。JERAに公益的な役割を求められる瞬間かもしれませんが、制度面での整理はされていません。

奥田氏 短期的には非常に厳しい要求が当社に来る可能性もありますが、民間で取れるリスクと取れないリスクがあります。事前にある程度は整理しておくのですが、例えば、ウクライナ侵攻時の「急にロシア産LNGの供給途絶が起きるかもしれない」といった事態を想定するのは困難です。

 そういう時でも、我々は最善の努力はします。ですが、永遠に民間企業としてのリスクでやり続けていたら、さすがに事業体としてもたない。でも、当社がやらなければ、日本の安定供給が損なわれかねない。次に有事が起きた時に政府と当社でどのようにリスクを負担するのか、協議する必要があります。

 当社から政府にこうした協議を持ち掛け、解決を図っていこうとしています。1つの成果が、2023年に始まった「戦略的余剰LNG(SBL)」です。国が有事に備えてLNGを確保しておくスキームで、2023年11月に当社がSBLの認定供給確保事業者となりました。2023年12月から2024年2月にかけて、月1カーゴ(LNG船1隻分)のLNGを当社が確保し、経済産業省からの要請に応じて供給します。

――2020年度冬季の電力需給逼迫と市場価格の高騰は、LNG調達量不足による燃料制約で大手電力各社の発電機の稼働が低下したことが要因でした(「なぜ電力逼迫を招いたLNG不足を予測できなかったのか」)。当時、LNGを備蓄する必要性が指摘されました。あれから約4年が経過し、ようやく形になったのですね。

奥田氏 (LNG備蓄に関する)協議は続けていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻がダメ押しになりました。ウクライナ侵攻を契機に世界の分断リスクが高まり、安定供給への施策の必要性が認識されたことで、このスキームの実現につながりました。

 SBLのスキームはすごく良いものです。民間企業では燃料をグローバルでトレーディングしている事業体でないと、柔軟にLNGの備蓄に対応することはできません。不要な時は確保したLNGを転売し、必要な時は日本に持ってくるということをやるには、トレーディング機能が欠かせません。民間企業がLNGを確保しますが、その際のリスクは国が取るというわけです。

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