用語解説

 低温にすると超電導現象を起こす物質。元素ではニオブ(Nb)や鉛(Pb)など27種類が超電導を示すが,臨界温度(Tc)は最高でも10K以下(Nb=9.3K)と低い。化合物ではNb3Geが23.2K以下で超電導になり,これが高温超電導体が発見されるまではもっとも高い臨界温度だった。

 1986年にペロブスカイト型の結晶構造を持つ銅酸化物(YBaCuO)が90K前後の高い臨界温度を持つことが発見され,以降,ビスマス(Bi)系銅酸化物など類似物質が数多く発見された。これらは高温超電導体と呼ばれ,臨界温度は約135K(-138℃)に達している。

 超電導状態では電気抵抗が消滅するので,線材として使うと送電損失がない。また発熱しないのでコイルに大電流を流して強力なマグネットを作ることもできる。このコイルの電流は永久に流れ続けるので,無損失の電力貯蔵装置にもなる。

 ただし,超電導応用機器は冷却装置などシステム構成が複雑になり,既存の電力機器を置き換えるためには技術的,経済的な課題が多い。

供給・開発状況
2005/12/02

Bi系,Y系線材の性能向上相次ぐ

 材料開発面で最も動きがあるのが,超電導線材である。超電導線材の性能指標となるのは,臨界電流(IC)と線材長さ(L)の積(IC×L値)。先行しているビスマス(Bi)系(Bi2SrCa2Cu3Ox)材料では,住友電気工業や古河電気工業は,ICが100~150A,Lが数百m~1km級のBi系線材を開発し,すでに超電導送電ケーブルなど向けに実証実験を開始している。

 このうち住友電気工業は,プロセスを大きく変えることにより,Bi系高温超電導線材の臨界電流を従来の100Aから30%向上し,130Aとした。機械強度も50%以上向上,生産性も高く,1000m以上という長尺化を達成し,歩留りを4倍以上とした。新プロセスとは,具体的には線材を製作するプロセスのうち超電導特性を決定する最後の重要工程である熱処理工程を,従来の枠を超えて,温度・圧力・雰囲気を総合的に制御することで,Bi系超電導材料の密度を従来の85%から100%へと向上させると共に,微量の酸素濃度を制御したとする。

 Bi系に続き,イットリウム(Y)系線材の開発が活発化している。Y系線材は,強い磁界中で臨界電流が急激に減少するBi系に比べて大きい電流を流せることや材料費が安いことなどから,Bi系に代わる可能性があるとして注目されている。

 Y系ではこれまで優れた特性を持つ結晶品質の高い線材を作るのは難しかったが,最近高いIC×L値を得たという発表が相次いでいる。2005年5月に超電導工学研究所(ISTEC)が1万9026A・m(210A×91m),フジクラが1万9100A・m(88A×217m)と記録を更新したのに続き,同年8月には米Super Power社が2万2055A・m(107A×207m)とそれを上回る結果を報告した。さらに,2005年9月には,ISTECが51940A・m(245A,212m)と再び抜き返して,現在のところチャンピオンデータとなっている。

 ISTECがY系超電導線材でIC×L値を大幅に向上させることができたのは,レーザー蒸着プロセス(pulse laser deposition:PLD)を改良したためである。PLDは,エキシマ・レーザーによりYBCO膜を基板に真空蒸着させる手法で,ISTECは「マルチプルーム・マルチターン法PLD」を採用している。これは,成膜中にレーザーの照射位置を移動させたり線材を巻き返すことで成膜領域を拡大し,成膜速度や原料の収率の向上を図るものである(図1)。

超電導モーター,送電ケーブルへの応用研究が進展

 このように超電導線材の性能向上が進むと共に,それを使った応用面での検討も本格化している。超電導コイルを使ったモーター,送電ケーブルなどだ。

 中でも注目されるのが,超電導コイルを使ったリニアモーターカーである。JR東海は,高温超電導コイルを初めて搭載したリニアモーターカーの走行試験を山梨リニア実験センターで開始した(図2)。住友電工が開発した,超電導臨界温度(Tc)が約110Kのビスマス(Bi)系線材を使う。冷凍機で直接冷却して約20Kで使用する。冷媒を使わないことから低温超電導磁石と比べて構造が簡素になり,信頼性を向上できる。今後同社は,高温超電導磁石の各部分の振動特性や温度特性を調べ,実用性を検証するという。

 石川島播磨重工業(IHI)が2006年には受注を開始する船用全超電導モーター推進装置にもBi系高温超電導線材が使われる。スクリューの駆動に,内燃機関ではなく電動モーターを使う「ポッド型推進装置」を採用しており,そのモーターのコイルに超伝導体を使っている。強力な磁場を出せるためにモーターを小型化・高トルク化できるからだ。さらに,省エネと二酸化炭素の発生量を抑えられるというメリットも出てくるとしている。

 超電導モーターに続いて用途開拓が進んでいるのが送電ケーブルであり,世界各国でBi系超電導線材を使った送電ケーブルの実証プロジェクトが始まっている。送電ケーブルを超伝導体に置き換えることによって,(1)送電時の損出を低減できる,(2)断面積が等しい通常の導電ケーブルと比べ大きな電力を送電できる,という二つの利点がある。線材メーカー各社は,電力設備の老朽化が進んでいる米国や中国などへの売り込みを活発化させている。

 

 

ニュース・関連リンク

JR東海,高温超電導磁石を初めて搭載したリニアモーターカーの走行試験を開始

(Tech-On!,2005年11月28日)

Bi系に続きY系も実用化検証の段階へ,ISTECが高温超電導線材で記録更新

(Tech-On!,2005年9月6日)

20年の時を経て,高温超電導が現実に---ビスマス系線材の実用化迫る

(日経エレクトロニクス2005年2月28日号Leading Trends)

JR東海,リニアモータ車両の実物や最新の超電導コイルを展示

(Tech-On!,2005年3月18日)

住友電工,ビスマス系高温超電導線材の密度を向上

(Tech-On!,2004年5月13日)