用語解説

 アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合ポリマーを主成分とするプラスチックである。最初にアクリロニトリルとスチレンを共重合させたアクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂が開発され,ポリスチレンに比べて耐薬品性と引っ張り強さを改善した。これに続き,物理的性質・機械的性質のバランスを良くするためにASとブタジエンをグラフト重合させたものが,ABS樹脂である。

 特性は,耐衝撃性や成形性に優れている半面,耐薬品性と耐候性があまり高くない。ASとブタジエンの比率を変えることにより,特性を調整している。またABS樹脂は,ポリマアロイの先駆けとなったプラスチックであり,物理的性質・機械的性質のバランスが良いため,用途面では自動車や電気・電子機器,日用品をはじめ,幅広く採用されている。

ポリマーアロイや組成変更で多様なグレード展開

 ABS樹脂のグレード開発では,帯電防止機能を高めたり,難燃性・耐候性を高めたものが登場している。さらにポリカーボネート(PC)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などの汎用エンプラとのポリマアロイも需要を拡大しつつある。ポリマーアロイの代表格がABS/PCアロイであり,難燃性・良流動性のガラス繊維強化グレードなど,製品仕様に応じたグレードが開発されている。

 また,ABSのブタジエンゴムをアクリルゴムに置換したASA樹脂や,EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマ)で置換したAESが開発されており,いずれもABS樹脂よりも耐候性などの特性を改善している。

供給・開発状況

2006/08/04

国内需要は横ばいだが
自動車分野は高成長


【図1】ASA樹脂を使ったシフトノブ(クリックで拡大表示)

 ABS樹脂の国内需要は,ここ数年横ばいで推移している。2005年は約35万tであり,2006年はそれよりやや低いレベルになると見られている。分野別で見ると,自動車向けが2001年以降延び続けており,年間5000t~1万tの水準で拡大している。自動車向けプラスチックの主流はPP(ポリプロピレン)樹脂だが,ABS樹脂は塗装やメッキが可能であるというメリットから,ドアミラーカバーやエアスポイラー,シフトノブなどに広く使われている。また一部,コストダウンのためにASA樹脂やAES樹脂の着色品に置き換わる動きもある(図1)。

世界需要5%成長,アジアが高成長

 世界需要を見ると,2005年には約570万t程度であり,今後も年率5%で伸びると推定されている。日本市場よりも高い成長が予想される。そのうち約330万tを占めるASEAN地域と中国では,自動車や家電,OA機器メーカーの現地生産が拡大しており,2010年には世界市場の65%に当たる450万tまで拡大する見通しだ。このため,ABS樹脂メーカー各社は,アジア地域での生産能力拡大に乗り出している。

東レ,アジア・中国事業を強化

 特に積極姿勢を打ち出しているのが東レだ。同社は2006年4月に,マレーシアの子会社であるToray Plastics (Malaysia)社(TPM社)のABS樹脂「トヨラック」の生産能力を増強する,と発表した。これによりTPM社の生産能力は,これまでより11万t多い33万t/年に,国内生産拠点の千葉工場(千葉県市原市)を含むグループ全体では,40.2万t/年になる。併せて,透明グレード品の生産も始める計画だ。さらに同社は,中国の東麗繊維研究所(中国)社との共同研究開発や,東麗塑料理社,タイTTS社などコンパウンド拠点との生産販売連携を推進するという。

 一方で東レは,マザー工場である千葉工場で,同社が持つナノアロイ技術を生かした先端グレードの開発も進めている。これにより,高機能化と多機能化,多品種・小ロット化が進む日本国内の需要への対応についても強化する計画だ。

 

リサイクルの動きも活発化


【図2】複合機から再生したABS樹脂を使った電卓「TS-1200TG」(クリックで拡大表示)

 環境問題の高まりを受けて,ABS樹脂についてもリサイクルを進めようとする動きが活発になってきた。例えば,キヤノンマーケティングジャパンは,「環境に配慮した」電卓5機種を2006年7月28日に発売したが,本体のプラスチック部位すべてに,複写機から再生したABS樹脂を使っている(図2)。

 再生ABSを採用した部位は機種によって異なるが,本体の上下ケースや電池ふた,カバー部などである。電卓全体に対する質量比で,70~80%程度を再生ABS樹脂が占める。キヤノンマーケティングジャパンは,地球温暖化防止の運動「チーム・マイナス6%」に参加しており,今回の電卓の発売はその取り組みの一環である。

ニュース・関連リンク

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