用語解説

 耐熱性と靭性などの機械的性質のバランスに優れた,信頼性の高い構造用エンジニアリング・セラミックスである。これは,自動車の各部品に採用されている構造用セラミックスの大部分が窒化ケイ素であることからも分かる。

 共有結合によって強固に結合した安定した結晶であるため,耐熱性に優れ,硬さも高い。結晶構造は,低温相のα型が三方晶系で,高温相のβ型が六方晶系である。通常の窒化ケイ素は1400℃~1600℃で相転移する。

 窒化ケイ素自身は化学的に安定しているので,単純に高温に加熱しても焼結が進まない。実際には,焼結助剤と呼ばれるアルミナ(Al2O3)やイットリア(Y2O3)を微量添加して,つなぐのが役目の粒界相をつくり,緻密(ちみつ)な焼結体を作製する。

 汎用グレードの室温の曲げ強さは500MPa~1000MPaで,破壊靭性KIcは5.0~7.5MPa・m−1/2,ビッカース硬さ1200~1700HV,耐熱衝撃温度ΔT=480℃~900℃と,機械的性質・物理的性質が良好である。

 高強度グレードもあり,曲げ強さが1500MPa前後の焼結体が安定して供給されるようになった。金属の塑性加工用のロールなどに適用されている。金属製のロールに比べて変形が小さいなどの特徴がある。

供給・開発状況
2006/09/08

自動車部品に採用拡大


【図】窒化ケイ素を使ったグロープラグ。左が細径のM8,右が従来のものと互換性のあるM10(クリックで拡大表示)

 窒化ケイ素は,自動車分野を中心に用途開拓が進んできた。1985年にターボチャージャーに採用されたのを皮切りに,グロープラグ,インジェクターリンクやタペットなどの擦動部品に採用が広がってきた。

 このうちグロープラグは,欧州を中心にディーゼルエンジン車向けの需要が高まってきている。環境規制の強化に伴い,排気ガスのエミッション低減や始動性向上をもたらす部品としてグロープラグに注目が集まっているためである。

 こうした要請に応えて,例えば日本特殊陶業は,窒化ケイ素によって発熱するグロープラグを開発した(図)。金属が発熱する現在のプラグが4.5秒で800℃になるのに対し,2秒で1000℃になる。この時間なら,ガソリンエンジンと全く同じ感覚でディーゼルエンジンを始動できる。

 材質は絶縁材,発熱材共に窒化ケイ素。純度の高い部分が絶縁材になり,不純物をドープした部分が発熱材になる。両方を同時に焼結する。金属のグロープラグは,温度が上がるに従って電気抵抗が大きくなる特性を利用して温度が上がり過ぎないようにしているが,セラミックスでは温度が上がっていく過渡特性に合わせて電流の与え方を制御する。

産総研とクボタ,低品位ケイ素原料を用いた新製法を開発

 産業技術総合研究所はクボタと共同で,低価格で低品位な原料を使い,環境負荷の少ないプロセスにより,耐熱,耐食性に優れた高強度窒化ケイ素を製造する技術を開発した。これにより,窒化ケイ素部品を低コストで製造でき,将来,アルミ鋳造部品を製造するための大型部材への展開が期待できる。

 今回開発した窒化ケイ素は,低純度で粗大なケイ素(Si)粉末と触媒機能を持つ焼結助剤の混合粉末を,水と短時間で混合し,成形,窒化・焼結で作製する。実際に作られた窒化ケイ素サンプルは,短時間混合のため原料の粒径は粗いままにも関わらず,その状態で成形焼結しても,従来の微細な原料を使用した場合に匹敵する緻密な組織になり,また機械的特性も同レベルになることを確認した。今回開発した窒化ケイ素は,水を溶媒として作製できるため環境負荷が少なく,低品位の原料を使用できるため価格は従来の1/5~1/25程度,1kg当たり数百円になり,全体コストに占める原料コストの割合の大きい大型の部材への適用が期待される。

ニュース・関連リンク

産総研とクボタ,低品位ケイ素原料を用いて高強度の窒化ケイ素を合成する技術を開発

(Tech-On!,2006年9月5日)

【東京モーターショー速報】NGK,セラミックスが発熱するグロープラグを本格展開

(Tech-On!,2004年11月6日)