用語解説

 原子番号22のTi元素を主成分とする金属材料である。特徴は,耐食性に優れ,軽量で比強度が高いこと。耐食性については,プラチナ(白金)とほぼ同等で,室温では酸や食塩水(海水)などとはほとんど反応しない。軽量性については,比重4.51と銅やニッケルの約1/2,鋼の約6割である。比強度については,ステンレス鋼や普通鋼を上まわり,アルミニウム合金の約3倍である。

 一般に「チタン」という場合,純チタンとチタン合金に大別される。純チタンは室温で稠密六方晶(α相)だが,約885℃で体心立方晶(β相)に同素変態する。純チタンに合金元素を添加すると,元素の種類、添加量によりβ相に同素変態する温度が変化し,(1)α相から成るα合金,(2)β相から成るβ合金,(3)αとβの2相領域が出現するα+β合金---の三種の合金が得られる。

 α合金は,高温および低温で安定であり,液体ヘリウム温度で延性を示すとともに,高温において優れた耐クリープ性を示す。β合金は冷間加工性に優れ,熱処理により高強度が得られる。α+β合金は,強度・延性・靭性のバランスに優れ,鍛造品,圧延板と様々な形状への加工が可能である。α+β合金は,チタン合金中で最も代表的なTi-6Al-4V合金をはじめ,全体の7割程度を占める。

製法は化学精錬法

 チタンの製法は,鉄鋼とは異なり,化学精錬法である。最も一般的な製法は「クロール法」と呼ばれ,この方法で作られるチタンは,スポンジ状になっていることから「スポンジチタン」と呼ばれる。クロール法のプロセスは,以下の5段階である。

(1)塩化:チタン鉱石(ルチル)の中の酸化チタンを塩素ガスと反応させて,四塩化チタン(TiCl<SUB>4</SUB>)を製造。

(2)蒸留:四塩化チタンを蒸留により精製(この四塩化チタンは、金属チタンの中間原料だけでなく,酸化チタンなどの顔料や電子材料などの化学製品の原料として利用される)。

(3)還元・分離:精製された四塩化チタンに溶融金属マグネシウムを反応させ,多孔質で塊状のスポンジチタンを製造。

(4)破砕:塊状のスポンジチタンを切断機や解砕機で破砕し,顆粒状とする。

(5)溶解:スポンジチタンを加圧成形したブリケットを溶解して円柱状のチタンインゴットを製造。

 用途としては,耐食性が高い点を活かして,化学プラント,火力・原子力発電所のパイプなどに多用されている。軽くて比強度が高いことから自動車ではエンジンのコンロッドや航空機のエンジン部品,ゴルフクラブなどのスポーツ用品に使われる。金属アレルギーを起こさないことから肌に身に付ける時計,眼鏡,ブレスレッドなどにも普及している。

供給・開発状況

2006/06/02

ソニー,深絞り加工によりICレコーダーの筐体に採用


【図】深絞り加工したチタン製筐体を採用した高音質のICレコーダー(クリックで拡大表示)

 チタンに関する用途で最近注目されるのが,ソニーが2005年11月に発売した高音質ICレコーダーの筐体に採用したことである(図)。加工メーカーである岩崎精機と材料メーカーの新日本製鉄と連携することで,困難だった深絞り成形に成功した。

 従来のチタン材料は加工性に劣り,深絞り加工を施すと表面が荒れるという欠点があった。これに対し,この3社は「チタン素材研究会」を組織し,加工性に優れるチタン材料の研究開発に着手。その結果,深絞り加工に適した伸びやすくしわになりにくい特性を持つ新しいチタン材料を開発した。また筐体への適用に当たっては,深絞り加工により箱状に成形することで剛性を向上。表面に硬さを高める改質処理と,イオンプレーティングによる金属薄膜処理を施した。

デュポン,低コストな新製法を開発

  デュポンは,低コストで高純度のチタン粉末を得る新しい製造プロセスを開発,その概要を「人とくるまのテクノロジー展2006」(2006年5月24日~26日,パシフィコ横浜)で展示した。新しいプロセスは,原鉱石から四塩化チタン(TiCl4),二酸化チタン(TiO2)を経てチタン粉末を製造するもので,現状の四塩化チタンからスポンジチタンを経てチタンインゴットを製造する方法に比べて,製造プロセスが簡単で,安い原鉱石が使えることなどから,大幅なコスト削減が期待できるとみる。

  部品の製造コストも,ニアネットシェイプの粉末冶金法を利用するため,低コストになるとみている。同社は基本的に,チタン粉末を提供することになるが,ブランク材などを求められた際には粉末冶金メーカーの協力を得て供給することも検討している。既に,今回の新しい製造方法と別の製造方法で得られたチタン粉末のサンプル出荷を開始しており,2010年の実用化を目指している。

ニュース・関連リンク

純チタンの筐体で先行くソニー,岩崎精機と新日本製鉄との「文殊の連携」

(日経ものづくり2006年6月号)

【人とくるま展】デュポンが低コストでチタン粉末を得る新しい製造法を提唱---高コストがネックのチタン合金の汎用化狙う

(Tech-On!,2006年5月24日)

新日本製鉄,深絞りに適したチタンをソニー製ICレコーダーが採用

(Tech-On!,2006年4月6日)

カシオ計算機,メタルケース仕様の電波腕時計に世界時計機能などを搭載したモデルを発売

(Tech-On!,2005年9月6日)

擦ってもたたいても使えるチタン,電中研,表面を硬化させる技術を開発

(日経ものづくり2005年7月号)