日経ものづくり 特報

純チタンの筐体で
先行くソニー

岩崎精機と新日本製鉄との「文殊の連携」


ソニーが筐体の開発に力を入れている。高音質な録音機能を備えたICレコーダーに,純チタン製の筐体を採用したのだ。他社に先駆けたオンリーワン技術である。この技術を開発する上でソニーは,加工メーカーである岩崎精機と材料メーカーの新日本製鉄との連携を重視した。新しい挑戦を提案し,それに応える協力メーカー。3社が得意分野を持ち寄った「文殊の連携」が新しい付加価値を実現するカギとなった。

 米国の有名なミュージシャンであるスティービー・ワンダー氏が,ソニー本社に電話をかけてきた。「店に行ったが,在庫がないと言われた。直接売ってくれないか?」。
 同氏が手に入れたかったのは,ソニーが開発した高音質ICレコーダー「PCM-D1」(図)。録音仕様は,サンプリング周波数96.00kHz,量子化ビット数24ビット,周波数特性20~4万4000Hz,S/N比96dB以上。楽器の演奏や鳥のさえずり,虫の音,自然の音などをCDの音質よりも忠実かつ臨場感豊かに記録できる。
 世界的なミュージシャンが飛び付くほど高音質の録音機能を追求した製品だけに,実売想定価格は20万円前後と,会議の録音などに使う普及タイプのICレコーダーに比べて10倍以上する高級品だ。
 ソニーがこだわったのは音質だけではない。こうした高級品には「外観品質にも,それにふさわしい付加価値が必要」(同社コネクトカンパニーPD商品設計部統括部長の古賀宣行氏)と考えた同社は,筐体にも新しい材料を採用した。樹脂やアルミニウム合金を筐体に使う従来のICレコーダーとは一線を画し,厚さ1mmの純チタン製の筐体を使って,本体の前面と背面を覆ったのである。

日経ものづくり 特報
図●高音質な録音機能を備えたICレコーダー「PCM-D1」
ソニーが2005年11月に実売想定価格20万円で発売した。