色素を使って太陽光を電気エネルギーに変換する電池のこと。太陽光が色素に照射されることによって,色素が励起して電子を放出する現象を利用している。シリコン系太陽電池よりも低コストで製造できる可能性があり,次世代の太陽電池として研究が活発化している。
色素増感型太陽電池の製法は,(1)ITO(酸化インジウム・スズ)薄膜をコーティングしたガラス基板を正負両極に配置,(2)受光面側のITOガラス基板にRu(ルテニウム)系色素を吸着させた酸化チタン多孔質膜をコーティング,(3)正負両極間にヨウ素イオンを溶解した電解液を封止---というプロセスである。
光電変換効率は高くて10%
光電変換のメカニズムは以下の通り。(1)受光面に太陽光が入射すると,色素が可視光を吸収して励起,(2)励起した色素から放出された電子が酸化チタンに移動,(3)電子がITOを通過して外部回路を通過して(ここで電池としての仕事をする),もう一方の電極(対向電極)に到達,(4)電子を放出した色素はヨウ素イオンから電子を奪って中和,(5)電子を奪われたヨウ素イオンが対向電極に到達した電子と結合して中和---。
色素増感型太陽電池の光電変換効率は,理論効率は30%あるものの現実のセルでは高くて10%程度である。20%を超える単結晶Si太陽電池に比べると劣るが,アモルファスSi太陽電池には匹敵する。
カラフルで形状の自由度が高い
用途開拓面で色素増感型太陽電池の特徴の一つは,色素としてシアン,マゼンタ,黄色の三原色を利用でき,カラフルな電池を設計できること。これに対して従来のSi系太陽電池は黒色の太陽電池しかできなかった。
形状の自由度が高いのも特徴だ。自由な形状に切り抜いたり,プラスチック基板を使えば折り曲げられる電池も実現できる。
プラスチック基板使った大型電池を試作
桐蔭横浜大学発ベンチャーのペクセル・テクノロジーズは,プラスチック基板を使った色素増感型太陽電池の開発を進めている。2005年9月には世界最大サイズの30cm×30cm(面積900cm2)の大型パネルを試作し,愛・地球博(愛知万博)で公開した。
従来は高温下でガラス基板に酸化チタン層を成膜していたが,同社は150℃以下の低温でプラスチック基板上に酸化チタン層を被覆することに成功した。さらに,集電に必要な材料や封止材料についても,スクリーン印刷方式によって被覆した。
試作した太陽電池の構成は10セル直列(単セルは17mm×30cm)で,厚さが0.5mm,重さが60g,電圧6V以上,電力0.4W。フレキシブルで光を通すシースルー性を持つフィルム状のモジュールだ。 ペクセルテクノロジーは,テレビなど家電製品向けに低コストで,使い勝手のよい色素増感型太陽電池の量産技術の確立を目指している。
導電性ポリマーとヨウ素代替材料を採用
第一工業製薬と三井物産が2003年に設立したベンチャー企業であるエレクセルは,電極に導電性ポリマー,電解液にはヨウ素溶液の代替材料を使った色素増感型太陽電池を開発し,「CEATEC JAPAN 2005」(2005年10月)で発表した(図1)。光電変換効率は3.8%だった。ヨウ素の代替品については詳細を明かしていない。導電性ポリマーは低温で電極パターンを作成できるため,コストを削減できるという。エレクセルは2008年ころにの実用化を目指すとしている。2008年には,色素増感型太陽電池基本特許も切れることから,実用化が本格化しそうだ。
自動車のガラス・ルーフに色素増感型太陽電池
色素増感型太陽電池の用途開拓も始まっている。例えばマツダは,「東京モーターショー」(2005年10月)で,色素増感型太陽電池を内蔵したガラス・ルーフを後部座席付近の天井部分に搭載したコンセプト・カー「先駆(せんく)」を展示した(図2)。同電池は太陽光を透過するために室内に光が届き,曲面のある形状に作れることができたのが特徴である。
同社は1991年に発売した「センティア」でアモルファスSiによる太陽電池を内蔵したサンルーフを採用したが,曲面を作れないというデザイン性の低さや,省エネルギー対策に対する市場の要求が弱かったことから他の車種までは広がらなかった。
今回開発した色素増感型太陽電池の光電変換効率は6%~7%で,マツダは今後8%以上に高める計画。Si系の太陽電池よりも効率は低いが,天井部分全面に加えて,サイドガラスやリアガラスにも使えるので,変換効率の低さを面積で補えるとする。最近,欧州車だけでなく国産車でも大型のガラスルーフを搭載する車種が増えているので,色素増感型太陽電池を使える場所も広がってきている,とマツダは見ている。