用語解説

 ある特定の波長を遮断するバンドギャップ(フォトニックバンドギャップ)を持つ光学結晶のことである。PCと呼ばれることもある。屈折率の異なる二種類の物質を,光の半波長程度の周期で交互に並べると,その波長の光の存在が許されないフォトニックバンドギャップが作り出される。

 フォトニックバンドギャップに相当する波長の光は結晶の内部を通過できない。しかし,PCの周期構造を一部壊して欠陥を作ると,光は欠陥部に集中する。この現象を使って,光の通る部分を作り出す光導波路や光ファイバーが作れる。また,光を増幅・発振する共振器にもなる。つまり,結晶の欠陥をコントロールすることで,望む波長の光を制御する微細素子を作成することが可能になる。

 屈折率を周期的に変化する方向が幾つあるかで,1次元PC,2次元PC,3次元PCの三種に大別される。フォトニック結晶の代表例としては,誘電体の多層膜(1次元PC),スラブ形(薄い板に規則的に穴を空けたもので1次元PCと2次元PCがある),ファイバー形(複数の中空穴を設けたもの)などがある。

供給・開発状況
2006/02/10

世界最高の光閉じ込め効果を持つSi系フォトニック結晶

 フォトニック結晶面での最近の研究成果としてまず注目されるのが,NTT物性科学基礎研究所がSi系フォトニック結晶を用いて世界最高の光閉じ込め効果を持つ光共振器を開発したことである。光閉じ込め効果の指標となるQ値はこれまでの最高は90万程度であったが,実測で98万,光導波路の影響を除いた補正値で104万と,初めて100万の大台に乗せた。

 材料としては,平面状の基板に,空気の穴を規則正しく開けた「2次元スラブ型」で,光信号を制御して,光メモリや光スイッチなど各種の光論理回路を実現する上での基盤技術となると期待されている。

光通信の通信距離を伸ばせるフォトニック結晶素子が登場

 光通信の性能を向上させるための具体的な素子の開発も進んでいる。例えば,物産ナノテク研究所らのグループは,「波長分散補償素子」と呼ばれるデバイスを開発した。波長分散補償素子とは,光ファイバ中を長距離にわたって信号光が伝播する際に,光ファイバの波長分散という性質によって信号光の波形が崩れて品質が劣化するのを打ち消す役割を持つ素子だ。


【図1】物産ナノテク研らが開発した素子の断面。フォトニック結晶の上に導波路(コア)がおかれている。電極以外の材料はすべてSi系である。(クリックで拡大表示)

 今後通信距離を長くするには,必須の素子である。従来の波長分散補償素子はサイズが大きく,量産性にも問題があって価格が高かった。これに対して今回の技術を使えば,従来に比べて長さを1/10以下にでき,しかも通常の論理LSIなどと同様のウエハーと製造設備を使って量産が可能になる。

 今回開発した波長分散補償素子は,Si系の2次元フォトニック結晶と従来の導波路を組み合わせた構造を持つ。具体的には,フォトニック結晶層(PC層)の上に電極のついた導波路(コア)を置いた構造をしている(図1)。この導波路に,波長分散によって波形が鈍化した光を通すと,光はコアとPC層にまたがって伝播しながら補償され,波形が復元された出力信号が得られる。

有機材料系フォトニック結晶でオールプラスチックレーザーの可能性

 有機材料を使ったフォトニック結晶の研究も始まっている。例えば, 物質・材料研究機構は,200nm径のポリスチレン微粒子を三元的に自己配列した「コロイド結晶」薄膜で発光性樹脂を挟んだ構造のレーザー発振装置を作成,光励起によってレーザー光を発振させることに成功した。「コロイド結晶」はフォトニックバンドギャップを持つフォトニック結晶の一種である。


【図2】物質・材料研究機構が開発したフォトニック結晶(コロイド結晶)レーザーデバイスの構造。最密充填ポリスチレンのブラッグ反射により共振を起こす(クリックで拡大表示)

 通常,外部光共振器型のレーザーデバイスは,レーザー発光素子を二枚のミラーで挟み,共振現象によって光を増幅して,レーザー光を取り出している。これに対して,開発したレーザー発振素子では,コロイド結晶が「ブラック反射」という特定の光を反射する性質を利用している。二枚のコロイド結晶が外部共振器のミラーのように働き,共振現象を起こす(図2)。

 既存の外部共振器型のレーザーデバイスは微小化することが難しいが,開発したレーザーデバイスならば,光集積回路中に組み込むことも可能になる。 さらに今後同研究機構は,半導体レーザーと同様の電流励起によるレーザー発振の検討も進める計画で,オールプラスチック・レーザーデバイスの可能性を広げる考えだ。

ニュース・関連リンク

レーザーもオールプラスチックに---物材機構がナノ微粒子と発光性樹脂でレーザー発振に成功

(Tech-On!,2005年11月4日)

世界最高の光閉じ込め効果,NTTが「Q値100万」のフォトニック結晶を開発

(Tech-On!,2005年10月31日)

京都大学とJST ,2次元フォトニック結晶構造を用いて発光ダイオードの発光効率を高めたと発表

(Tech-On!,2005年5月31日)

Siウエハー上に光通信用の波長分散補償素子,物産ナノテク研などがフォトニック結晶で実現

(Tech-On!,2005年3月11日)

JSTと京都大学,3次元フォトニック結晶を用いた発光制御技術を開発

(Tech-On!,2004年6月4日)