東芝に、テレビや録画装置といったデジタル家電機器の待機電力の極小化を狙ったLSI「ecoチップ」について話を聞いた。同社によれば、節電のために、「電子/電気機器の電源プラグを抜いている」という消費者は意外に多いという。ただし、電源プラグを抜くと、リモコンで機器のオン/オフもできなくなってしまう。リモコンがもたらす利便性の確保と、電源プラグを抜いたに等しい極小の待機電力の実現の両立を狙ったのが、ecoチップである。

図1●ecoチップと主な特性 東芝のデータ。
図1●ecoチップと主な特性
東芝のデータ。
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 詳しくは後述するが、このチップ(図1)は、主に二つの役割を持つ。赤外線リモコンの操作信号を受信すること、その内容を識別し必要に応じて機器への電源供給を始めること(いわゆる、ウエイクアップ動作)である。このチップは、同社の研究開発センター(いわゆる中央研究所に当る組織)と、デジタルプロダクツ&サービス社(デジタル・テレビや録画機器、パソコンなどを扱う事業部)が共同で開発した。今回の取材では、研究開発センターの大高章二氏(ワイヤレスシステムラボラトリー 研究主幹)と梅田俊之氏(ワイヤレスシステムラボラトリー 主任研究員)に話を聞いた。

初代は2007年に登場

 両氏によれば、ecoチップの起源は意外に古い。2007年9月のLSI関連の国際会議「CICC:Custom Integrated Circuits Conference」において、最初のecoチップの発表を行っているという。この時は、赤外線ではなく、無線(950MHz帯)を使っての遠隔操作の利便性と待機時の低消費電力性の両立を狙うためのチップだった。余談だが、両氏の所属がワイヤレスシステムラボラトリーなのは偶然ではない。

 両氏らの開発した技術シーズと、デジタル家電機器の事業部のニーズの双方から生まれたのが、今回のecoチップである。デジタル家電機器のリモコンは、無線ではなく赤外線を使うことから、赤外線リモコン対応版のecoチップが開発された。東芝は2011年の2月のLSI関連の国際会議「ISSCC:International Solid-State Circuits Conference」において、今回のecoチップの技術の概要を発表している。講演タイトルは「A 130μA Wake-up Receiver SoC in 0.13μm CMOS for Reducing Standby Power of an Electric Appliance Controlled by an Infrared Remote Controller」である。

節電意識の高まりで注目度が急上昇

 デジタル家電機器の待機電力の削減は、かなり以前から機器メーカーの課題の一つだったが、東日本大震災が起こったことで、節電や需要のピークシフトに対する意識が消費者の間でも急速に高まった。実際、東芝が震災後の4月20日に行ったデジタル・テレビなどの新製品発表会では、大画面や3次元表示の新製品(Tech-On!関連記事1)よりも、Liイオン2次電池の内蔵でピークシフト機能を実現した19インチ型の試作機の方が話題を呼んだ(同2)。同社は、東南アジアなど停電の多い地域向けに、以前から2次電池内蔵のテレビを開発・販売しており、それをベースに試作機は作られた。

 6月に行ったデジタル・テレビなどの新製品発表会で、東芝は、今回のecoチップの概念を報道機関向けに初めて紹介した(同3)。この発表会でも、機器の新製品と同じくらい、あるいはそれ以上にecoチップは関心を集めた。なお、ecoチップを搭載した実際の機器は2011年度中に発売される予定である。