日本メーカーが中国やインドなどの新興国市場の攻略に本腰を入れ始めた(関連の動向をまとめた『日経エレクトロニクス』の6月28日号特集「いざ新興国,日本流で挑む」はこちら)。先進国を上回るスピードで動く新興国市場で日本企業は何を目指すのか。その取り組みを追う。
 第3回の今回は第2回に続き,ソニーの中国統括会社,Sony(China) Ltd.で薫事・総裁を務める永田晴康氏が中国での取り組みを語る。(第2回の「なぜ,ソニーは4万円の大画面テレビを投入したか」はこちら,第1回はこちら)。

 中国のテレビ市場で現地メーカーが強い大きな理由の一つは,CRTテレビの時代に地方の販売網やサービス網などの整備をほぼ終えていること。現地に根付いたサービス網の充実度合いで,外資系メーカーの先を行っています。

 対抗するには,現地のニーズに合わせた商品の開発と同時に,販売網やサービス網の構築を一体で進めなければならない。テレビだけでなく,デジタル・カメラやパソコンなどの商品群でも同じです。そのための取り組みを今,着々と中国で進めています。

 特に重要なのは,サプライ・チェーンや流通在庫の管理です。中国という広大な国土で,いかにして過不足なく在庫を管理するか。この1年半ほどは,この課題を解決することに多くの力を注いできました。

 ひな型はノート・パソコン「VAIO」の専売店「VAIOショップ」にあります。

パソコンの7割強,デジタル・カメラの5割以上を専売店で販売

 VAIOショップは,第三者が経営するソニー商品の専売店の一つです。その名の通り,パソコンの「VAIO」と関連製品を扱っています。

 VAIOショップで構築したのは「売れた分だけ商品を配送する」という自動発注の仕組みです。店舗が持つ在庫数の基準を機種ごとに定めておき,1台売れたら,翌日か2日後にはソニーからその店舗に追加分を1台届ける。

専売店や直営店のネットワークを構築
上海にあるソニーの直営店の外観。この店舗と北京の直営店を旗艦店に,第三者が経営し,ソニー商品を専門に扱う専売店網を構築している。
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 この仕組みを追求することで,今ではどの機種が何台売れたかを日次で把握できるようになり,それを需要予測に生せるようになりました。流通網の整備によって,新しいモデルを発売してから3日間程度で中国国内のすべての専売店の店頭に並べられるようになった。当面の目標である2日間にはまだ至っていませんが,以前は1週間掛かっていたので,かなり進歩したと言っていいでしょう。

 こうした中国での在庫管理の仕組みは,実は他の地域よりも進んでいます。国土が広く,インフラが整っていない中国の実情が逆に幸いしたのです。他の地域よりも優れた仕組みと自負できるようになりました。

 VAIOだけではありません。地方展開とソニーブランドの強化を同時に進めるため,ソニー商品の全般を扱う「デジタルワークショップ(DWS)」や,カメラ関連の「DIショップ」という専売店も増やしています。2010年3月末時点で中国のVAIOショップは約600店,DWSは約150店,DIショップは約180店と,全体で900店を超えました。1年前に比べ2割増となる店舗数です。

 中国では,VAIOの7割強が専売店での販売で,利益水準も高い。デジタル・カメラも専売店で5割以上を販売しています。他のメーカーの流通バランスとは大きく異なるのが現状です。専売店網の充実が,他のメーカーとは異なるソニーの強みになっています。

 ただ,テレビだけは違う。大型量販店での販売が7割を占めています。