第1部<攻略の道筋>
舵を切る大手メーカー
独自の知見を生かして再挑戦

エレクトロニクス大手が中国やインドなどの新興国市場の攻略に本腰を入れ始めた。ソニーは現地で専売店を積極的に拡充し,パナソニックは徹底した生活調査に乗りだす。先進国の消費低迷により,経済成長が際立つ新興国に生き残りを懸ける。

新興国が薄型テレビ事業を牽引

 この1年ほど,ビデオ・カメラを片手に新興国の家庭を訪問するソニーの技術者が増えている。現地の生活環境を映像に収め,テレビなどのデジタル家電が,どのような家で,どのように使われているかを理解するためだ。同社でグローバルマーケティングを担当するSVPの鹿野清氏は「日本にいても現地のニーズは分からない。現場に行って,肌で感じることが大切だ」と,技術者の“新興国遠征”に期待を寄せる。

 背景にあるのは危機感だ。中国,インド,ロシア,東南アジア…。「BRICs」や「VISTA」などの略称で名前が挙がる新興国の攻略では,必ずと言っていいほど韓国のSamsung Electronics Co.,Ltd.やLG Electronics,Inc.が前に立ちはだかる。豊富な資金力を背景にした韓国メーカーは,大量の広告宣伝や,現地の文化・習慣を学んだ多くのスタッフを投下し,新興国で攻勢をかけている。「ビジネス展開のスピードで,ソニーはまだ遅れている」と,鹿野氏も認めざるを得ない状況だ。

 ソニーと同様に,ほとんどの日本のエレクトロニクス・メーカーは2009年後半以降,新興国市場の攻略に大きく舵を切った。日立製作所やパナソニック,東芝などの大手は,売上高を伸ばす地域として,新興国を前面に押し出した。命題は,新興国で増えている中間所得層,いわゆるボリューム・ゾーンの攻略だ。「韓国メーカーからは1周遅れの取り組み」との見方は強いものの,経営陣が口々に語る目標からは,本気になった日本メーカーの意気込みが見える。

 キッカケは,2008年秋に起きた世界的な経済危機だ。消費低迷で先進国の成長が急速に鈍化する一方で,新興国は軒並み,高成長を維持した。今や,中国などでの販売数が日本国内を上回った製品は多い。日本の技術者が開発した製品を買う顧客の本流は,先進国から新興国に移ろうとしている。

『日経エレクトロニクス』2010年6月28日号より一部掲載

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第2部<ケース・スタディー>
手探りでの模索
日本の強みはまだある

デジタル・カメラや携帯電話機,通信機器,白物家電,電子楽器…。日本メーカーの新興国での取り組みで,成功例が少しずつ現れている。新興国の攻略を手探りで模索する日本メーカーの取り組みを追う。

日本メーカーに新興国攻略の芽

 2009年夏に富士フイルムが世界市場で発売したコンパクト型のデジタル・カメラ「A170」。100米ドルを切る価格が話題になった「新興国モデル」の戦略機種だ。主なターゲットは,新興国のボリューム・ゾーンである。

 この機種と,100米ドル前後の派生モデルの販売が好調だ。2010年3月までの販売台数は新興国モデルの合計で300万台に達した。当初想定した新興国だけではなく,先進国でも火が付き,「予想を超えて売れた。発売後の半年ほどでこれだけ売れたモデルは記憶にない」と,富士フイルムの営業担当者は驚きを隠さない。

 新興国モデルの順調な立ち上がりは,富士フイルムのデジタル・カメラ事業を復活させる立役者になった。2009年度に同事業は黒字に転換。2010年度は,販売台数が前年度に比べ33%増の1200万台,世界シェア10%の目標を掲げた。低価格機が新興国での販売網の拡大に寄与し,上位機種の販売が同時に伸びたことも大きい。国によっては,1ケタ台前半だった市場シェアが2ケタに跳ね上がったところも出てきた。

 富士フイルムと同様に,日本メーカーの新興国での取り組みで,少しずつ成功例が現れている(図)。新興国モデルの投入や現地メーカーとの連携など,各社の攻め方はさまざま。そこには,新興国攻略に向けたヒントが隠れている。

『日経エレクトロニクス』2010年6月28日号より一部掲載

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