日本メーカーが中国やインドなどの新興国市場の攻略に本腰を入れ始めた(関連の動向をまとめた『日経エレクトロニクス』の6月28日号特集「いざ新興国,日本流で挑む」はこちら)。今後,国内技術者が開発した製品を買う顧客の本流は,先進国から新興国に急速に移りそうな勢いだ。
 ただ,新興国では先行する韓国や現地のメーカーが行く手に立ちはだかる。先進国を上回るスピードで動く新興国市場の攻略に向けて日本企業は何を目指すのか。その取り組みを追う。
 第1回の今回は,組み込み機器向けソフトウエア開発のユビキタス。

 2010年4月にユビキタスの新社長に就任した家高朋之氏は最近,海外の展示会で自社製品のデモを見た顧客の反応に手ごたえを感じている。

 「新製品の『QuickBoot』を足掛かりに『面白い。ほかの製品も見せてほしい』と興味を持ってもらえることが増えた」。家高社長は,かねてからの目標である海外展開が現実味を帯びてきたと自信を見せる。特に有望と見るのは,中国やインドなどをはじめとする新興国市場向けの機器だ。「先進国の市場は飽和しつつあるが,新興国のデジタル家電市場はまだこれから。市場が伸びるときに足場を築きたい」と意気込む。

 ユビキタスの創業は2001年。マイクロソフトの元社員らが独立して立ち上げた。中心となったのは,テレビでインターネット接続できるデジタル家電「WebTV」の開発に携わった技術者たちだ。コードサイズが小さく,限られたハードウエア資源で高速に動作する,「小さく」「軽く」「速い」を追求したソフトウエアの開発を進めてきた。

 2007年11月にはジャスダック証券取引所が創設したベンチャー企業向け市場「NEO」に第1号銘柄として上場。2010年3月期の売上高は前の期に比べ22.6%増の11億5900万円,営業利益は同じく23.9%増の4億6300万円と業績は好調だ。家高社長は,創業10年目の区切りとなる2010年4月に創業メンバーの川内雅彦前社長(現会長)から経営のバトンを受け取った。

約1秒の高速起動技術で海外を視野に

組み込みソフトウエアで海外展開を目指す
ユビキタスの家高朋之社長。1966年生まれ。1991年に大阪大学経済学部を卒業後,アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)やマイクロソフト,ボーダフォンなどを経て,2006年11月にユビキタスに参加し,2008年6月に同社CFO(最高財務責任者)。2010年4月から現職。
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 これまで好業績を牽引してきたのは,任天堂の携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」に採用された無線LANソフトウエアである。ユビキタスの売り上げの約7割をDS向けのソフトウエアが占める。ただ,この製品を含むネットワーク関連分野の比率は徐々に低くなりつつある。この2年ほどの間に新たに加えた製品群が軌道に乗り始めたからだ。

 2008年8月には,米Encirq社から組み込み機器向けデータベース・ソフトウエア「DeviceSQL」の知的財産権を取得。それを基盤にしたソフトウエア製品が,パナソニックやオリンパスのデジタル・カメラの写真管理機能などに採用された。デジタル家電内でのコンテンツ管理や,組み込み機器を接続する際のプロファイル管理などの用途で注目を集めている。

 もう一つの柱として力を入れているのが,2009年11月に発表したデジタル家電の高速起動技術「Ubiquitous QuickBoot」だ。米Google社のソフトウエア基盤「Android」などLinuxベースのOSを搭載したデジタル家電の起動を約1秒に短縮できる技術である。ノート・パソコンなどに搭載されているハイパネーション機能を応用した。HDDやフラッシュ・メモリなどの外部記憶装置に待避させた動作イメージを,起動に必要なデータを優先的に展開することで,見掛け上の起動時間を短くする。

 約1秒という起動時間の特徴に,機器メーカーが寄せる関心は高い。国内の大手メーカーはもちろん,アジアを中心とする海外メーカーからの熱い視線が集まる。「国内外の幅広い企業から多くの問い合わせがあり,うれしい悲鳴という状況。デジタル家電や携帯機器だけでなく,医療機器のような当初は想定していなかった分野でも興味を持ってもらえている」(家高社長)という。

 ユビキタスが開発を進めてきた「小さく」「軽く」「速い」ソフトウエアの特徴は,新興国向けの機器で大きな強みになると家高社長は見る。

 「小さく軽く速いという特徴は,ハードウエアのコストを抑えて機器を作れるということにつながる。今後,新興国では通信機能を備えた機器を安価に普及させたいというニーズが増えるだろう。むしろ,新興国向けの機器の方がユビキタスのソフトウエア製品の用途としてふさわしいというくらいに思っている」