ソニーのレンズ一体型20倍ズーム機「DSC-HX1」について,画像処理LSIの構成といった技術情報をQ&A形式に整理して報告する。なお,本機のユーザー体験面での革新性については前編を,開発の経緯は中編を,機能についてはSony StyleのWebページなどをご覧ください。
―― DSC-HX1は1080/30pの動画をH.264で符号化して記録できる。キヤノンのSoC「DIGIC 4」は1チップ処理だが,ソニーのSoC「BIONZ(ビオンズ)」にはまだ,H.264をたやすく処理できるほど演算資源はないはずだ。LSIを追加したのか。
そうだ。自社開発のH.264コーデックLSIを積んだ。DIGIC4と異なり,過去と将来を参照するフレーム間予測「Bフレーム」も利用してビット・レートを抑えている。HD動画のファイル・サイズは,ともすればユーザーにとって受け入れがたいほどHDDの容量を食ってしまう。それをできるため避けるため我々はBフレームも使った。
具体的なビット・レートは,まだ公表できない(プレス・リリースに掲載されることが多い特定記録容量における録画時間という情報も未開示)。低消費電力を念頭に開発したとはいえ,今回のコーデックLSIの演算能力は,DSC-HX1で実装した仕様で手一杯というわけではない。将来に向けた余裕を持たせた。
―― HDTV対応ビデオ・カメラやDVDレコーダでよく使われている「AVCHD」には対応しなかった。なぜか。
DSC-HX1はデジタル・カメラ。となると撮った動画を保存する先は,どうしてもパソコンになる。そこではMP4形式が普及している。AVCHDではない。ただし,ソニーのカメラ部門がAVCHDへの対応を将来もしないと決めたわけではない。
―― 高速連写と画像合成によってノイズの少ない高感度撮影を可能にしている。何個のフレームから1フレームを合成しているのか。
6フレームから1枚の写真をつくっている。薄暗い中,自然光で被写体ブレなく,ノイズも抑えて写真を撮るために,この機能はとても有効だ。
―― フル画素の連写を,なぜ秒間10コマに限ったのか。
CMOSセンサ特有の画像の歪みによって,ユーザーを落胆させたくなかったからだ注1)。この問題は,撮像素子の前にメカ・シャッターを置くことでしか解決できない。その限界が今回,秒間10コマだった。
注1)CMOSセンサは画面中の上の画素行から順々に光電変換を終える。CCDのように全画素が同じタイミングで終了するわけではない。このため,例えば高速移動する車中から木を撮ると,木のてっぺんと根本では水平方向の位置が横にずれてしまう。
―― メカ・シャッターを造っているメーカーは極めて少ない。開発してもらうのは,難しくなかったのか。
詳細は把握していないが,それが開発部門で問題になったという事実はない。
―― 連写中にオートフォーカスは各コマ別に動作するのか。リコーは,3月13日発売するコンパクト機「CX1」でピント位置をマルチ化した。
それはできていない。
―― 連写で困るのは,撮影後の選別だ。自動選別あるいは選別アシスト機能はあるのか。
アシスト機能を備えた。写真中の顔のスマイル度がどの程度かといった顔のデータを使って,自動的に推薦するものだ。推薦した写真には王冠マークが付く。写真中に顔がないとカメラが判断したときには,連写を始めた最初の一枚に王冠を付けた。顔がないときの推薦には改善の余地があるかもしれないが,ユーザーに不快な思いをさせたりはしないはずだ。
―― パノラマ写真を本体背面の液晶モニターではどのように表示するのか。
全体を表示するだけでなく,拡大することも当然可能だ。さらに拡大表示したときには,撮影時にカメラを動かした方向にそって画像を自動スクロールさせることができる。撮影方向のデータはExifに格納した。