発表会の様子
発表会の様子
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 ソニーのレンズ一体型20倍ズーム機「DSC-HX1」について,取材で把握した開発の経緯を報告する。本機のユーザー体験面での革新性については前編を,機能についてはSony StyleのWebページなどをご覧ください。

なぜ遅くなったのか

 まず技術者ならば誰しも気になることは,なぜソニーはカシオ計算機に商品化で大幅な遅れをとったのかという点である。超高速CMOSセンサはソニー製だ。カシオ計算機は,その第1世代品(画素ピッチは2.5μm)を使い「EX-F1」を1年前に発売している。

 この原因はいくつもあるが,「第1世代品の仕様では大量に売れる商品をつくりにくい。第2世代品(画素ピッチは1.7μm)の供給を待つべき」というソニーのデジタル・カメラ部門の判断が最も大きく影響した。

 第1世代品の総画素数は,660万にとどまっていた。ヨドバシカメラやビックカメラという商品説明が得意な流通業者がいる国はいざしらず,米国のように付箋1枚(正確には小さなPOP)で説明を終えてしまう流通業者が多い市場では,「最安価格帯の機種と同等以下の画素数だが,ずっと高価」という商品を,消費者に訴求しづらい。

 商品企画面での制約もあった。ソニーは当然,超高速CMOSセンサを利用した機種で,どんどん下がり続けるコンパクト機の平均単価を押し上げたいと考えている。そこで自然に同社が目を付けたのが,高倍率ズーム機だった。これを欲しがる消費者層ならば,超高速CMOSセンサがもたらす新しいユーザー体験に対して,お金を支払ってもらいやすいというわけだ。

 ただし,高倍率ズーム機は倍率競争に陥っている。20倍は実現しないと「欠点」があると,流通業者や消費者にみなされかねない。では第1世代品を用いて,レンズに格別な費用をかけずに,それを実現していたらどうなっていたか。ソニーの証言は得ていないが,撮影時にレンズ・ユニットが大変に長く伸びていたと考えられる。

 レンズ・ユニットの長さを左右する最大級のパラメータは,撮像素子の大きさである。第1世代品は,寸法が1/1.8型(チップ面のうち画素を敷き詰めた面の対角長が8.9mm)と大きい。この点,第2世代品の寸法は,1/2.33型(対角長7.63mm)と,他社の現行の高倍率機が使うCCDとほとんど同じである。

 さらに画質面でも第1世代品には若干の課題があると,ソニーのカメラ部門は感じていた。第1世代品の画素ピッチは2.5μmと広めだったが,他社の高倍率機が使っている,より狭いピッチのCCDに比べて格段にノイズが少ないわけではなかった。つまり「とっても画がきれい」という理解されやすいウリは備えられなかった。

 今回の第2世代品(画素ピッチは1.7μm)のノイズ・レベルは,同一ピッチのCCDよりも少ないという。なお,他社の高倍率ズーム機が積むCCDの画素ピッチは現在,1.5μmほどである。後編では,画像処理LSIの構成といった技術情報をQ&A形式に整理して報告する。

――後編へ続く――