メーカー側は,どう反論しているんですか?

 そもそもメーカー側は,ほとんどの私的使用の場合には,権利者側が主張するような損害は発生しないという立場です。確かに,複製先の媒体として光ディスクが主流の時代には,例えばユーザーがCDやMDに音楽を録音して家族などにあげたりする行為が,音楽CDに対する潜在的な需要を損なっていた可能性はあります。メーカーはこの点には理解を示しており,録音・録画用の光ディスク装置や媒体に対する補償金の賦課には同意しています。

 しかし,iPodやHDDレコーダーのように,記録媒体を内蔵する機器では話が異なります。メーカー側からすれば,例えばユーザー自身が買ったCDの曲をiPodに移しても,権利者側には何の損失も生じません。しかも光ディスクなどの交換媒体と異なり,音楽を録音したiPodや,テレビ番組を録画したHDDレコーダーを,ユーザーが気軽に誰かにあげるとは考えにくい。もちろん,音楽のデータだけを,パソコンを介して友人にコピーしてあげるようなユーザーはいるかもしれませんが,そうした行為は法律で取り締まるべきである上,それを見越してすべてのiPodやHDD内蔵レコーダーに補償金をかけるというのは乱暴すぎると主張します。

 さらにメーカー側は,地上デジタル放送やインターネット上の音楽配信などのように,制限つきの複製しかできない場合は,補償金で手当てすべき損害はないと見ています。例えば有料の音楽配信などでは,複製できる回数などに応じた対価を,コンテンツの代金に含めることができるからです。無料のデジタル放送の場合も,コピーワンスなりダビング10なりの制限を加えるのは,私的利用における潜在的な損害をなくすためのはずです。それでも一定の損害が発生すると主張するならば,その対価は消費者から徴収するのでなく,無料放送を実施する放送局と交渉すべきというのが,メーカー側の立場です。

 今回,ダビング10を実施する鍵になったのは,Blu-ray Disc規格対応のレコーダーや媒体を私的録画補償金の対象にするという合意でした(関連記事)。これは一見,権利者が要求してきた「ダビング10対応機器への私的録画補償金制度の適用」を実現したようにみえます。しかし,メーカー側の解釈は違うのかもしれません。Blu-ray Discレコーダーは,地上デジタル放送だけではなくアナログ放送の録画も可能だからです。メーカー側はこれまでもアナログ放送の録画に限って,Blu-ray Discへの課金を認めるという主張をしていました(関連記事)。今後この主張を改めて繰り返す可能性があります。

 メーカー側からすれば,補償金が発生し得る複製元は,音楽CDとアナログ・テレビ放送くらいです。現在,音楽CDはネット上の音楽配信,アナログ・テレビ放送はデジタル・テレビ放送に置き換わりつつあります。いずれも,複製回数を制限できる形態です。このことからメーカー側は,補償金制度はいずれ不要になると主張します。実際,録画補償金については,アナログ放送が停波する2011年に廃止すべきと提言しています(図5関連記事)。

図5 メーカー側は,HDDなどを内蔵するAV機器では権利者側が主張するような損害はないと主張している。今後,主流になるデジタル放送やコンテンツ配信サービスでは,複製に制限を加えることができるため,補償金制度は必要ないとする。
図5 メーカー側は,HDDなどを内蔵するAV機器では権利者側が主張するような損害はないと主張している。今後,主流になるデジタル放送やコンテンツ配信サービスでは,複製に制限を加えることができるため,補償金制度は必要ないとする。 (画像のクリックで拡大)