連載の第1回第2回では,海外や日本のカプセル内視鏡開発の現状について報告してきた。今回は,アプリケーションの広がりを紹介したい。当初は,従来の内視鏡では観察できなかった小腸をターゲットにしてきたカプセル内視鏡だが,最近,新たな領域へと開発の舵を切りつつある。


 2006年10月21日~25日にかけて,ドイツの首都ベルリンで第14回欧州消化器病週間(UEGW)が開催された(写真1)。UEGWは,出席者が約1万人に上る,大規模な消化器関連の国際学会の一つである。

 今回の学会会場で最も注目を集めていたのが,初めてその詳細が明らかになった,ギブンイメージング社が開発中の“大腸用”カプセル内視鏡だ。展示ブースでも,大腸用カプセル内視鏡は大々的に展示された(写真2)。欧州連合(EU)加盟諸国で医療用具として販売するために必要な「CEマーク」が10月20日までに得られたためだ。米国食品医薬品局(FDA)の認可はまだだが,2006年度中ではないかと予想されている。

 UEGWでは複数の臨床試験の結果が報告されたが,そのうちの一つを簡単に紹介しよう。

大腸内視鏡と遜色ない結果

 Erasme大学病院(ベルギー)のJ. Deviere氏らは,大腸のがんもしくは良性ポリープが疑われる41人(平均年齢56歳)を対象に,カプセル内視鏡と大腸内視鏡の精度を比較した。その方法は,まずカプセル内視鏡検査を行い,その後,別の医師が大腸内視鏡検査を行うというもの。

 その結果,ポリープ検出におけるカプセル内視鏡の感度*1は77%,特異度*2は70%で「感度,特異度ともに大腸内視鏡検査と大きな違いはなかった」(J. Deviere氏)。患者に何らかの悪影響が出た事例はなかった。

*1:この場合は,ポリープがあると正しく検出できた割合のこと。 *2:この場合は,ポリープがないと正しく判断できた割合のこと。

 ほかにも,大腸用カプセル内視鏡の有用性を評価する報告が相次いだ。内視鏡的な「治療」が必要だと予想される場合には,診断と同時に治療も行える大腸内視鏡検査が勧められるものの,大腸がんのスクリーニング検査を多人数に対し非常に簡便に実施できるというカプセル内視鏡の利点を評価する報告が多かった。

 前回も触れたが,大腸内視鏡の挿入操作は医師にとって熟練が要求されるもので非常に難しい。検査を受ける患者側の心理的・身体的負担も重い。こうした障壁を取り払って検査の受診率を上げ,大腸病変の見落としをできるだけ少なくしたい,そして病変を早期に発見することで早期治療につなげていきたい――というのが,国際的な医療界の流れとなっている。

 発表された大腸用カプセル内視鏡は,錠剤型の内視鏡の前後にカメラが付いており,1秒間に4枚の画像を撮影する。これは,2005年に欧米で認可された食道用カプセル内視鏡と同じ撮影形態だ。直径11mmで長さは33mm。小腸用および食道用のカプセル内視鏡は直径11mm,長さ26mmだったため,少し長くなったと言える。バッテリーについては,その詳細は明らかではないが,従来6~8時間程度だった駆動時間が約10時間に延長された。

オリンパス製にも注目集まる

 話を学会会場に戻そう。今回の展示ブースでは,既に欧州33カ国で2005年10月から発売されているオリンパスの小腸用カプセル内視鏡にも人だかりができていた。画像解析画面では早送り,巻き戻し,4分割などが可能。被験者の腹部8カ所に貼ったアンテナのどこに最も近いかを表示することで,カプセル内視鏡が体内のどこにあるか,大まかな位置を把握できる(写真3)。片手で持てるサイズのリアルタイムビューワもある。これもカプセル内視鏡が消化管内のどこにあるか,大体の位置を確認するためのもので,画面は5cm弱四方と小型だ。

 ちなみに,このリアルタイムビューワは,ギブンイメージング社のカプセル内視鏡にも2006年半ばから搭載された。ただし,こちらは小型ノート・パソコンほどのサイズで,持ち運べるとはいえ,かなり大きい。

 なお,今回の展示ブースで明らかになった両社のカプセル内視鏡の違いがあった。それは駆動開始の仕組み。ギブンイメージング社のカプセル内視鏡は,カプセル内視鏡本体にキャップが付き,さらに外装プラスチック・ケースに入っている。ケースから外すと駆動開始となる。プラスチック・ケースには磁石が付いており,向きを合わせて再度ケースに戻すことで,スイッチを切り替えることができる。

 一方,オリンパスのカプセル内視鏡は,リユースできる専用ケースをカプセル内視鏡本体にかぶせて回転させることで,カプセル内視鏡の駆動を制御できる(写真4)。事前に動作確認を行って,またオフ状態に戻し,被験者の準備が整うまで待ってからオンにするといったことが可能だ。

小腸用さえも使えない日本

 また,腸管の狭窄のみを調べる「Patency System」と呼ばれるタイプがある。2003年に欧州で認可され,米国では2006年5月に認可された。外形は直径11mm,長さ26mmで,通常のカプセル内視鏡と同じだが,カメラなどが付いているわけではない。

 Patency Systemのカプセルは,両端に穴の開いた,10%のバリウムを含むラクトース(乳糖)の外筒と,無線タグ(RFIDタグ)から成る。外筒は次第に溶けて,含まれるバリウムは腸管内に広がって造影剤として働く。カプセルが通れないほど腸管が細い場所があれば,そこにRFIDタグが引っかかっている様子などを同タグの位置検出装置で把握でき,狭くなった場所はX線造影検査でも見ることができるというわけだ。

 このように,小腸用に続き,食道用,大腸用が発売され,胃用も開発中と,各臓器別のカプセル内視鏡が続々登場し,百花繚乱の欧米に対して,小腸用さえもまだ認可されていないのが日本の現状だ。同時に治療ができない,十分な往復観察ができない,など診断・治療両面での限界はあるが,患者負担が少ないカプセル内視鏡が,日本でも一刻も早く使用できるようになってほしい。

【訂正】
記事公開当初,ギブンイメージング社のカプセル内視鏡について,「いったんキャップを外すとスイッチを切ることはできない」と記述していましたが,実際には外装ケースに戻すことでスイッチを切ることができます。読者の皆様,関係者の皆様にお詫びして訂正いたします。

    連載の目次
  1. 【連載・目次】カプセル内視鏡,知られざる開発競争
  2. 【第1回・登場の経緯】カプセル内視鏡,軍事技術との意外なつながり
  3. 【第2回・日本の現状】国内でもカプセル内視鏡の利用開始は目前?
  4. 【第3回・最新の動向】各臓器専用のカプセル内視鏡の開発へ