前回は,カプセル内視鏡を最初に開発したイスラエルのギブンイメージング社の開発経緯について主に紹介した。では,このカプセル内視鏡,日本への導入についてはどうなっているのだろうか。


 日本人で,最初にカプセル内視鏡の実物を目にしたのは,恐らく獨協医科大学 学長の寺野彰氏だろう。それは,2001年に米国で開催された消化器科の専門医向けの学会でのことだ。

 その前年の同学会で,動物実験の結果を中心にしたカプセル内視鏡の発表があり,寺野氏は当時からカプセル内視鏡に注目していた。続く2001年の学会では,ギブンイメージング社の大規模なブース展示が行われ,そこにカプセル内視鏡の実物が展示されたのだ。

 「長いチューブを挿入するという従来の内視鏡検査の概念が根底から変わる可能性がある――」。寺野氏らは実物を目の前にして,変革の大きな波が迫っていることを強く予感した。折しもギブンイメージング社では,日本での販売を目指した検討が始まっていた。

診断面でX線より高い評価

 双方の思惑が一致し,学内の倫理委員会の承認を得て2003年に,獨協医科大学病院と社会保険中央総合病院で臨床試験が始まった。対象は,消化管内に浮腫や潰瘍などが生じる慢性の炎症性疾患「クローン病」を中心とする小腸疾患がある患者65人。

 クローン病は未だに原因不明の病気で,確立された治療法も無い。徐々に消化管が炎症によって狭くなり,手術を余儀なくされることもある。闘病が長期にわたるため,経過観察のための検査が欠かせない。臨床試験は具体的には,これまで小腸の検査に広く使われてきたX線を用いる「小腸二重造影法」とカプセル内視鏡の診断精度を比べる方法で行われた。

 ちなみに,2003年1月に,寺野氏はカプセル内視鏡を個人輸入し,自ら飲み込んで試してみている。飲み込む際に少し違和感を感じる程度だったという。

 臨床試験の結果の詳細は明らかになっていないが,カプセル内視鏡では,小腸二重造影より明らかに多くの所見が得られ,診断面で優れていると評価された。この結果を基に2004年3月,医薬品医療機器総合機構に医療機器としての承認申請が行われた。しかし,同年4月の独立行政法人化と重なった影響もあり,2年以上が経過した今も,まだ申請中の段階から抜け出せていない。

 なぜこんなに承認申請に時間がかかるのか――。カプセル内視鏡は,既に海外50カ国以上で,35万人以上に使用されている検査法である。

 米国で医薬品や医療機器の認可などを行う米食品医薬品局(FDA)では,小腸の病気が疑われた場合,小腸二重造影法よりも優先してカプセル内視鏡検査を行うよう既に2003年から勧めているほどだ。欧州消化器内視鏡学会でも2004年に,原因不明の消化管出血の患者に対し,最初にカプセル内視鏡検査を行うよう勧めている。

 テレビなど,マスコミで報道される機会も増え,獨協医科大学には,原因不明の消化管出血といった小腸の病気が疑われる患者から「ぜひカプセル内視鏡検査をしてほしい」という問い合わせが多く寄せられるようになった。

 こうした事態を受けて,2004年に同大学光学医療センター内視鏡部門長の中村哲也氏が中心となり,全国10施設の医師が参加する「カプセル内視鏡研究会」を立ち上げた。

登場は今年秋か?