スマートフォンの台頭が、自動車業界にも大きな影響を与えています。特に、カーナビ市場が大きく変わりつつあります。世界的に拡大した簡易型カーナビ(PND)の販売が縮小傾向にある他、高機能な据置型カーナビを代替する可能性も出てきました。

 私が乗っている自動車では、かつて携帯電話機で渋滞情報を取得して最速ルートなどを案内してくれるカーナビを使っていました。しかし、携帯電話機をフィーチャーフォンからスマートフォンに機種変更したのに伴い、スマートフォンでは情報センターに接続できなくなりました。

 ですが、スマートフォンのカーナビ・アプリを使うと同様のルート案内が可能です。しかも、常に最新の地図で案内してくれる上、交差点での案内もより詳細な情報をアナウンスしてくれます。こうなると、カーナビを使う意義がなくなってきます。ただ、スマートフォンのアプリの画面を「車内ディスプレイに大きく表示してくれれば…」という思いが増しますが。

 もちろん、こうした状況をカーナビ・メーカーや自動車メーカーは十分理解しています。そのため、カーナビは高付加価値路線とスマートフォンとの融合を目指す路線の2極化が始まっています。付加価値の高いカーナビの代表例となるのは、やはりパイオニアの製品でしょう。AR(拡張現実)技術を用いたカーナビを発売し、話題を呼んでいます。しかも、実写映像版に加えて、ヘッドアップ・ディスプレイ版を投入するなど先進的な取り組みを見せています(関連記事1)。

 こうした高付加価値化を図ったり、スマートフォンとの連携機種の開発を進めてたりしていますが、それでもカーナビ単体で付加価値を高める路線には限界があります。自動車メーカーにとっては、ドル箱だったカーナビの次の担い手となる“ポスト・カーナビ”というべき付加価値の高い車載機器を開発していかなければなりません。

 ここで注目が集まりつつあるのが、カメラを用いた運転支援システムです。運転支援システムといえば、これまでにも車線逸脱警報や衝突を軽減するプリクラッシュ・セーフティー・システム、追従機能付きクルーズ・コントロールなどありますが、こうした機能をはるかに超える高度な運転支援システムが今後登場しそうです。

 そのカギを握っているのが、カメラや車載LAN、LSIの進化です。カメラについては、ソニーが興味深い取り組みをしています。それは、積層構造を用いた裏面照射型CMOSイメージ・センサです。まずはスマートフォン向けに2012年秋に発売することを明らかにしています(関連記事2)。同センサの特徴は、センサ部と論理回路を別々に製造してから、3次元積層できることにあります。そのため今後、センサ部は量販品を利用しつつ、論理回路には車載用途に特化した機能を実装した低コストで高機能な車載向けカメラが簡単に手に入るようになりそうです。

 しかも、こうしたカメラを複数使用しても映像を遅延なく伝送できる高速車内LANの開発も進んでいます。その代表例が民生機器で普及しているEthernetを、自動車分野でも利用する動きです(関連記事3)。2013年以降、周辺監視用のカメラ・システムや運転支援システム、映像伝送の用途での採用が始まるとされています。しかも、車載用途で必須なリアルタイム性とフェイルセーフを確保しつつ、1Gビット/秒を超える伝送速度を実現できる規格について早ければ2014年ごろに策定されそうです(詳細は日経エレクトロニクスの2012年8月6日号の解説「Ethernetがクルマに載る」をご参照ください)。

 高機能なカメラと高速伝送可能な車内LANに加えて、FPGAなどのLSIを用いて高速なハードウエア処理を実施できれば、これまでにない運転支援システムの機能を実現できそうです。個人的には、死角がまったくないカメラ検知システムや高精度な歩行者検知システムをはじめ、自動運転に近い領域の運転支援システムなどに期待しています。

 ここからは宣伝になりますが、日経エレクトロニクスでは2012年9月5日に車載Ethernetにフォーカスしたセミナー「第1回 車載Ethernetが変える、クルマの未来」を開催します。自動車メーカーからはトヨタ自動車をはじめ、BMW社とGeneral Motors(GM)社、Hyundai Motor社の担当者からご講演いただきます。さらに、デンソーやHarmanといった電装品メーカーをはじめ、MicrelやMarvell、Broadcomといった半導体メーカーからの講演を予定しています。この他、ETASやベクター・ジャパンといった開発ツールを手掛ける企業からも車載Ethernetへの取り組みをご講演いただきます。ご興味のある方はぜひご参加ください。