とりわけ半導体については、なぜ韓国メーカーがコストダウン戦略に優れるのかについては、さまざまな分析が加えられてきた。筆者も、Tech-On!のコラム欄で多くの記事を書いてきた(以前のコラム1以前のコラム2以前のコラム3など)。それらを読み返してみて思うのは、経営トップがコストダウン戦略というビジョンを明確に示すことの重要性である。

 こうしたトップの戦略は、開発と量産プロセスを連動させてコストダウンできる組織を生む。半導体メーカーにおけるコストダウン戦略の重要性を説いてきた湯之上隆氏は、近著『イノベーションのジレンマ日本『半導体』敗戦』で、Samsung Electronics社の開発から量産にいたる組織を紹介している。

 それによると、次世代DRAMの開発では30人単位の複数のチームが開発を競っており、より儲かると判断されたチームが量産に移行する。開発チームのミッションは量産することであり、自然と工程フローから量産までの全体最適を心がけ、コストダウンの意識が根付くという。これに対して、日本の半導体メーカーでは開発部隊と量産部隊が分離されており、工程フローを構築する開発部隊には、歩留まり向上やコスト意識は希薄だと湯之上氏は指摘している(本書pp.65-68)。

 もちろん、半導体とLiイオン2次電池のプロセスには多くの違いはあるだろうが、半導体の苦い経験に学ぶところはあるだろう。

 「半導体の苦い経験」という意味で、最後に指摘しておきたいのが、国の制度が競争力に影響する点である。税制や償却制度などの各国ごとの違いが企業成果に大きな差異をもたらすことが明らかにされてきている(東京大学ものづくり経営研究センターのディスカッションペーパーno.235)。例えば、メモリビジネスでは、キャッシュフローで、日本と韓国の間には、実に年間2800億円もの格差ができてしまっている。

 これは、半導体に限らず、液晶パネル、太陽電池やLiイオン2次電池など、巨額投資を必要とする産業が国内で量産工場を立ち上げる際に直面する大きな問題である。

 Liイオン2次電池については、せっかく日本の自動車メーカーと日本の電池メーカーがタッグを組んで、両者の強みを生かしながら産業を立ち上げようとしている。本当にLiイオン2次電池で日本が国際競争力を上げようとするならば、国の制度面に踏み込む議論が今後もっと必要とされるだろう。

■変更履歴
記事掲載当初,「竹下秀夫氏」「Posco社」の名前を誤って掲載していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。