筆者が先日書いた日本半導体産業のコスト競争力に関するコラムがきっかけになって,半導体装置メーカーの方々と議論する機会を得た。装置メーカーは,日本,韓国,台湾などグローバルにビジネスをしているので,各国半導体メーカーの比較が可能であり,その中から日本の半導体メーカーの問題点が見えてくるのではないかと思ったからである。

 その議論の内容を座談会形式で再構成する。A氏は日本の半導体メーカーから米国の装置メーカーに転職した方,B氏は日本の装置メーカーに長年在籍している方,C氏は日本の装置メーカーから米国の装置メーカーに転職した方である。日本の半導体産業が絶好調だった時代から,弱体化していった状況を現場でつぶさに見てきた方々である。


筆者 日本の半導体メーカーが競争力を落とした理由の一つとして,装置にノウハウが組み込まれて,装置さえ買ってくれば作れるようになって,韓国や台湾のキャッチアップを許した,という面があると言われていますが…。

A氏 ちょっといいですか。装置さえ買ってくれば半導体が作れるなんて,そんなすり替えの議論をいまだにしているからダメなんですよ。日本の半導体メーカーの弱体化の理由にはまったくなっていないと思いますね。

筆者 でも,日本の装置メーカーの技術者が韓国メーカーのラインに張り付いて,技術指導してたんじゃないんですか?

「ノウハウを教えたつもりはない」

B氏 私も装置を納入した韓国メーカーに出張はしましたが,行った理由は技術指導とは違いました。スペックどおりのパフォーマンスが出ないので「装置を返す」と言われて,それを説得するためです。返されたらまずいということで必死でした。「ノウハウを教えに行った」などという感覚はなかったですね。

筆者 韓国メーカーの技術力は最初から高かったということですか?

B氏 韓国や台湾メーカーが,本来の目的からするとオーバースペック気味の高性能な装置を購入して,それを基にキャッチアップしたことは確かです。彼らは,その装置を使いこなして,作る技術を磨いて,ステップアップしていったということだと思います。

筆者 その韓国や台湾が特に磨いて,ステップアップした技術のうち,日本メーカーをしのぐようになったのが,コストダウン技術ということでしょうか。

C氏 そうですね。この前,ある装置について韓国の半導体メーカーと日本の半導体メーカーで使用実態を調べてみたんです。そしたら,日本メーカーは同じデバイスを作るのに韓国メーカーよりも2倍もの台数の装置を使っていました。韓国メーカーのコストダウン技術は日本のかなり先を行っていると言わざるを得ません。

A氏 日本の半導体メーカーは基本的にプロセスが長いですね。プロセスが長ければ安くできるわけがない。こんなことは10年以上も言われていることなんですが,その差は一向に縮まっていません。

筆者 日本メーカーは品質向上技術にばかり注力して,コストダウン技術に目が向かなかったということでしょうか?

分かっちゃいるけど…

A氏 うーん。ちょっと違いますね。私は当時その現場にいたから分かるんですが,1980年代に大型コンピュータ向けDRAMでトップに立った日本の半導体メーカーは,1990年代に入ってパソコン向けDRAMの市場が拡大することをいち早く見抜いていました。なんせ,DRAMのトップサプライヤーだったわけですから,市場の動きは一番分かっていた。そこで当時の経営からは,技術の現場に「大型コンピュータ向けのDRAMでは過剰品質だから,もっと低コストのDRAMをつくるように」という指令がしつこいくらいに来ていました。コストダウンしなければいけないことは当時の技術者は分かっていました。

筆者 頭では分かっていても実際にはできなかった,ということでしょうか。

A氏 そう。できなかった。いろいろと理由をつけてエクスキューズするのではなくて,コストダウン技術で遅れをとったという事実に向き合わなければならないと思います。かく言う私自身も「戦犯」の一人ですが…。

筆者 でも,優秀な日本メーカーの技術者が頑張ってもできなかったというのは,何か構造的な問題があるのではないでしょうか。

B氏 当時の日本メーカーと韓国・台湾メーカーでは,気にしていたことが違っていたという面があると思います。日本メーカーが気にしていたのは歩留まり,台湾メーカーが気にしていたのはチップ1枚当たりの単価,という違いが確かにありましたね。

C氏 違いといえば,韓国メーカーは装置の理想限界を求める点が日本とは違っていますね。例えば,稼働率を限界まで上げようとする。それに対して,日本は稼働率をある値でフィックスさせて,その枠の中で歩留まりを上げるなどの努力をするから,コストダウン面ではどうしてもかなわない。

日本:デジタル,韓台:アナログ