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「山寨」としてのスモールハンドレッド

藤堂 安人=主任編集委員
2009/11/06 16:30
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 中国ではクルマもいよいよ「山寨機」か---。NHKが先週の日曜日(2009年10月25日)に放送した「スモールハンドレッド 新たな挑戦者達」を観ながらそんなことを考えた。

 「山寨機(さんじゃいじ)」の「山寨」の原義は「盗賊などが山中に築いた砦」のことで、「行政の管理から逃れた製品」という意味になる。元々は、無線機として必要な認可を取っていなかったり、先進国メーカーの製品を丸々模倣するなど違法または違法スレスレの手法によって製品化された携帯電話機を指す言葉だったが、ノートパソコンや白物家電にも広がっている(関連する日経エレクトロニクスの記事1記事2)。

 同番組は、電気自動車の開発競争を描いたドキュメンタリーであるが、特に印象的だったのが中国山東省の農村部における超低価格な電気自動車の現状がまさに「山寨」的であることをレポートしたくだりだ。

 まず映し出されたのが、山東省のとある農村の空き地で、ある電気自動車メーカーが開催した試乗会である。持ち込まれた電気自動車の価格は1万元(約13万円)ととてつもなく安い。これまでクルマというものに手が届かなかった貧困層でもなんとかなりそうな値段設定だ。最高時速は40km。空き地に集まった農民の方々がこのクルマに嬉々として乗り込み、シフトレバーをいじり、「ニュートラルって何だ?」と聞きながらも、「かっこいいなあ」「これなら雨でも風でも平気だね。本当にいいクルマだ」とうれしそうに語る。

 しかしこのクルマ、ナンバープレートもなく、運転するのに免許もいらないという。「中国政府としては正式なクルマとしては扱っておらず、性能や安全のルールもほとんどない」とナレーションが入る。違法というわけではないようだが、「行政の管理から逃れた製品」とは言えそうだ。しかも、こうした「山寨車」ともいうべき電気自動車を造る零細企業が雨後の筍のように設立されている。実際、山東省の道路を走ると、道端には電気自動車を宣伝する看板がたくさん立っている。カメラは、こうした「スモールハンドレッド」のある1社の「生産現場」に入る。

 そのメーカーは農家出身で、3年前に見よう見まねでクルマを作り始めたのだという。ガレージのようながらんとした作業場で、作業員が手作業でクルマを組み立てている。簡単なシャシーの前後に鉛蓄電池らしき電池を五つ積み、簡素なモーターと車輪を取り付ける。ボディの製造工程はよく分からなかったが、何かプラスチック材のブロックのようなものを手持ちのグラインダーで削って造っている。ある作業員が言う。「最初は難しかったけど、今は慣れたので難しくはないよ」。社員数は20人で、月に100台の電気自動車を造るという。

 このメーカーは今はまだプリミティブな製造現場しか持たないが、経営者の夢は大きい。まず山東省を拠点に中国全土に展開し、将来的には世界市場を視野に入れている。「世界中の貧しい人がターゲットです」と誇らしげに語る。

 このように簡単に「自動車」が作れてしまうのは、電気自動車の構造が簡単で部品点数が少ないことが大きいが、もう一つ重要なのが街中に数百件の部品販売店が軒を並べる部品マーケットが存在する点である。番組では、中国やアジア諸国の街角でよく見かける野菜や果物でも売っているかのような露店が立ち並ぶマーケットを紹介する。ある中国メーカーに技術指導に来ているという元日系自動車メーカーの日本人エンジニアがこの部品マーケットを訪ね、「ここに来ると私も小さな中小企業でも作ってみるかなという気になる」と語る。

 このように、部品がオープンな市場で売られ、それらを買ってきて組み立てればある程度の製品ができてしまう産業構造のことを、東京大学の丸川知雄氏は「垂直分裂」と呼ぶ(『現代中国の産業』参照)。「垂直分裂」とは、「垂直統合」の逆の現象で、製品の上流から下流に向かうバリューチェーンの各要素のすべてを一つの企業が手掛けるのではなく、それらがバラバラに分離されて,おのおの別の企業が担うようになる現象である(関連する以前のコラム)。

 「垂直分裂」の一現象としてのバラバラに分解された部品マーケットは、産業を問わず中国のあちこちで見かけることができる。以前、丸川氏の講演を聴いたことがあるが、同氏は温州市にある靴材料市場でかかとだけを売る店やライター部品の専門店などの写真を紹介していた。

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