こうした状況下で2004年に突如として発表されたSEDパネルの事業化は,薄型テレビ・ブームに沸くエレクトロニクス業界において,一躍「話題の技術」として大きな注目を集めることになった。

液晶パネルと好対照な方法論

 SEDパネルに注目が集まる理由は,単に画質に対する可能性の高さだけではないだろう。薄型テレビ向けディスプレイとして先行する液晶パネルと好対照な方法論を製造に取り入れている点が,見逃せないポイントである1)。とりわけ対照的なのが,コストダウンの手法だ。

 液晶パネルは,製造装置や部材を標準化し,大規模投資によるガラス基板寸法の大型化と大量生産によって,コストダウンを進めてきた。しかし,この結果として,投資規模そのものが雌雄を決する要素となり,韓国や台湾などの海外勢に主導権を奪われることにつながった。

 これに対しSEDパネルは,製造装置や部材をできるだけ内製し,これらを独自の技術によって磨き上げることで,コストダウンを図ろうとしている。こうした手法がどこまで通用するのか,今後のエレクトロニクス業界に指針を与える一つの事例として,多くの技術者の視線が集まっている。

 キヤノンと東芝は2006年3月,当初2006年春としていたSEDテレビの発売時期を撤回。2007年第4四半期の発売に照準を合わせて仕切り直すことを発表した。基本技術の面でも,製造技術の面でも独自性にこだわり,じっくりと時間をかけて開発が進められてきたSEDパネル。大輪の花を咲かせるのか,あるいは「つちのこ」として語り継がれるのか,現在のところ確かな答えは出ていない。

小谷 卓也
参考文献
1)小谷,「SED なぜコストで液晶に勝てるのか」,『日経エレクトロニクス』,2004年11月8日号,no.886,pp.97-115.