パケット交換で分散ネットを実現

 ARPANETの功績は,パケット交換による分散型のデータ通信ネットワークを初めて実用化したことである。回線交換の場合,通信が終わるまで送信者/受信者が回線を占有するのに対して,パケット交換は転送データを一定長のパケットに分割して送るため,複数の送信者/受信者が回線を同時に共有することができる。パケットは送信者から受信者まで即時に届けられるのではなく,途中の中継ノードを経由して送られる。中継ノードでは入ってきたパケットのデータを一時的に蓄積し,次の中継ノードに向かって送り出す(ストア・アンド・フォワード)。

 パケットを送信者から受信者へ最短時間で送り,ネットワーク上で障害が生じた場合は迂回路を選択して送る(ルーチング)。また,ネットワークの容量を超えてパケットがあふれないように,パケットの流入を制御する必要がある(フロー制御)。通信やアプリケーションの処理レベルに応じて,標準的な通信インタフェースを決めることも必要である(通信プロトコル)。こうして後年インターネットの構成要素となる技術が次々と開発されていった。

 日本でARPANETが注目されたのは1973年以降であり,既に稼働の実績を積み上げていた。このころまでは研究者のためのネットワークであったが,その後,ARPAに代わって全米科学財団(NSF:National Science Foundation)が援助するNSFNETがつくられ,1990年にARPANETは終了する。さらに商用インターネットが誕生して急速に発展し,1995年にはNSFNETも終了する。

米国が底力を発揮した70年代

 筆者が初めて米国取材したのは1975年で,先進的な大学・研究所のコンピュータ環境に目を見張ったのを覚えている。LANや電子メールなど今では当たり前であるが,30年前のことである。机の上の端末から全米のコンピュータにアクセスできるのに驚嘆した。UNIX(1969年),マイクロプロセサ(1971年),電子メール(1971年),Ethernet(1973年),TCP(1974年),スーパーコンピュータ「CRAY-1」(1976年)など,革新的な技術が開発されたのが1970年代であり,米国が圧倒的な力を発揮した。その象徴がARPANETだといえよう。

桑原 啓治