「五感に訴えるデバイス」

 そういえば,基調講演に続くFPDサミットで,台湾AU Optronics Corp. Vice-Chairman & CEOのH.B. Chen氏が講演の中で,「FPDは人間の五感に訴える可能性のあるデバイスだ」と語っていたのを思い出した。これまでは視覚が中心だったが,今後はそれに加えて触覚を刺激するデバイスになるということのようである。

 確かに,展示会場でも,タッチセンサを内蔵した液晶パネル(Tech-On!の関連記事2)やSamsung Electronicsブース以外でもマルチ・タッチ・スクリーン機能をそなえたインフォメーション・ディスプレイの展示(Tech-On!の関連記事3)が多いようだ。「人間の五感に訴えるデバイス」というあたりに,「人間のライフスタイルを変えるデバイス」であるということのヒントがあるのかもしれない。

 第二ラウンドで期待される用途はもちろん,画面上で着替えられるブティックだけではない。Lee氏は,基調講演で,屋外の広告表示などの「デジタル・サイネージ」,家庭でギャラリーを鑑賞できる「家庭用アドバンスド・テレビ」,オフィスや学校で使う「e-ボード」,ハンドバックのように持ち歩けるディスプレイなど五つの用途を紹介した(Tech-On!の関連記事1)。

 さらにこれらの用途の具体例を示すために,未来の生活シーンを映画風にまとめた動画も紹介した。ディスプレイ上で着替えるブティックのほか,壁一面のディスプレイに森林の映像が映し出されたり,オフィスの机の上がディスプレイになったり…。それぞれの要素自体はこれまでも紹介されたものだが,こうして軽快な音楽とともに美しい映像で紹介されると確かにそのようなライフスタイルの世界が来るような気がしてくる。

【図3】拡大表示したり,回転したりも自由自在
【図3】拡大表示したり,回転したりも自由自在 (画像のクリックで拡大)

「バリュークリエーション」=「思わず好きになる製品を創る」?

 またLee氏の講演で興味深かったのが,「第二ラウンド」では産業構造が変わるという指摘である。同氏によると,CRT代替をメーンとする「第一ラウンド」では,投資のタイミングとプロセスイノベーションが競争力の源泉であった。そして「第二ラウンド」からは「バリュークリエーション」が事業の原動力となると語った。

 それを聴いていて「バリュークリエーション」のバリューとは,機能や仕様などの数値化しやすいものではなく,ユーザーの好みといった数値化しにくいものを指しているのではないか,と思った。

 日経エレクトロニクス誌は2007年9月24日号で,「思わず好きになる製品を創る」という特集を組んでいるが,「思わず」というのはユーザーにとってもなぜその製品が好きになるのか,はっきりとは説明しにくい状況を示している。同誌はヒット商品の傾向が変化してきたとして,次のように書いている(同誌p.68)。

多機能・高性能といった仕様の優劣ではなく,ユーザー・インターフェース(UI)の新しさや使い勝手の良さ,質感といった,総合的なユーザー体験で勝負する機器の台頭である。その機器を誰かが使っている様を見て,思わず自分も使いたくなってしまう。そんな「思わず好きになる製品」がヒットし,これまでの高機能品を駆逐し始めた。

 ここで言う「総合的なユーザー体験」で勝負することが,「バリュークリエーション」につながるということではないかと思う。または,機器開発者にとって,UIや使い勝手を上げるために重要なポイントが,FPDに工夫を加えることである,とも言えそうである。

強烈なメッセージを発すべきは誰か?

 なお,Lee氏は講演を次のような言葉で締めくくった。

「第一ラウンドでも,テクノロジーイノベーションと皆さんの協力で,FPDを人間の生活をより豊かにする巨大な産業に成長させました。第二ラウンドでも,バリュークリエーションやテクノロジー・イノベーションなどで協力していくことで,2012年に1500億米ドルのFPD市場をつくりだすと確信しています。そしてこのような明るいビジョンを持って,FPD産業全体が共に発展するように皆さまの協力をお願いします」

 この言葉で感じたのは,FPD産業全体の成長を牽引しようというLee氏の強烈な意思である。また印象的だったのは,同氏は液晶パネルの担当者ではあるが,プラズマや有機ELについても言及し,FPD全体の成長の重要性を語ったことである。さらに,パネルだけでなく,バリューチェーンの各部門の健全な発展を訴えた。FPD業界に対してリーダーシップを強烈にアピールした格好である。

 ただ,講師控え室で同氏が筆者にポツリとこぼした言葉が頭を離れない。「私の話したことは日本の企業ならどこも考えていることです。私はそれをまとめてお話しただけです」。この謙虚な言葉を聞いて,テクノロジー・イノベーションを引っ張ってきた日本企業がリーダーシップを握り,業界に対して強いメッセージを発して欲しい,という気持ちでは,筆者も同氏も同じなのではないだろうか,などと思ったりしたのであった。