現在,日本においては新車での装着率が7割にも達していると言われているカーナビ。車内で使用する以外に持ち歩きができるPNDも注目される中,既に日本では確実に市場が広がりつつある。一方で,海外市場に目を移せば,今後6年間でカーナビ市場は3倍に伸張するという予測もある(Tech-On!関連記事1)。この拡大する市場を狙い,各社の競争も激化している。
 今回の「技術競争力の検証」では,このカーナビを取り上げ,中でもカーナビの性能で最も重要と思われる経路探索技術に関して各メーカーの技術競争力を分析する。分析には,公開されている特許情報をもとにして,特許を保有する企業の技術的な競争力を測る指標であるPCI(Patent Competency Index)を利用する。PCIとは,SBIインテクストラが独自に開発したもので,各特許の注目度などを被引用数や情報提供数などのリアクション数により計測し,個々の特許の質を数値化した指標である。

●図1 カーナビ経路探索技術に関する特許の出願件数の推移
●図1 カーナビ経路探索技術に関する特許の出願件数の推移 (画像のクリックで拡大)

 図1は,カーナビの経路探索技術に関する特許の出願件数の推移を見たもの。分析を開始した1997年以降,右肩上がりで伸びてきたものの,2001年をピークにして下降傾向に入っている。このことから,カーナビの基本技術は既に確立されており,最近ではそれをいかに高度に利用していくかという点に,開発の方向が進んでいると予測できる。

●図2 カーナビ経路探索技術に関する出願開始人数と出願終了人数の推移
●図2 カーナビ経路探索技術に関する出願開始人数と出願終了人数の推移 (画像のクリックで拡大)

 図2は,カーナビ経路探索技術に関する特許の出願を開始した人の数と終了した人の数の推移を見たもの。出願開始人数は,その年から出願を開始した人数,すなわち前年以前には出願人名として現れていない人数を求めたもので,その分野へ新規参入したおおよその企業数が分かる。一方で出願終了人数は,その年に出願を終了した人数,すなわち翌年以降に出願人名として現れない人数を求めたもので,その分野から撤退したおおよその企業数が分かる。
 1997年以降,出願開始人数の方が出願終了人数よりも多かった。この数が逆転するのが2002年。図1と合わせて考えると,カーナビの基本技術が確立すると同時に,この分野で活躍できるプレーヤーの顔触れもほぼ決まり,撤退する企業の数も増えたのだと予測できる。

●図3 カーナビ経路探索技術に関する出願件数の上位15社とPCI値
●図3 カーナビ経路探索技術に関する出願件数の上位15社とPCI値 (画像のクリックで拡大)

 図3は,1997年以降に出願された特許に対して出願件数の多い出願人ランキング,出願件数,PCI,件数シェア,PCIシェアである。出願件数の上位2社には,いずれもトヨタ自動車に純正カーナビを多く納入しているデンソーと松下電器産業がランクインした。また,3位はホンダに純正カーナビを多く納入しているアルパインだった。
 このランキングで注目されるのは,パイオニアとシャープ,ならびにケンウッドと日本ビクターである。パイオニアとシャープは,業務提携と資本提携で基本合意に達しており,共同開発を進める分野としてカー・エレクトロニクスを挙げている(Tech-On!関連記事2Tech-On!関連記事3)。また,すでに経営統合に向けて協業を開始している日本ビクターとケンウッドは2007年10月1日に,カー・エレクトロニクスなどの要素技術を開発する合弁会社「J&Kテクノロジーズ」を設立している(Tech-On!関連記事4Tech-On!関連記事5)。
 両陣営ともに,提携によって出願件数では順位を上げてきている。一方で,PCI値にはほとんど変化がない。もともと,カーナビ経路探索技術においては,シャープ,日本ビクターとも存在感がそれほどあるわけではなく,シナジー効果はこの分野ではあまり発揮できそうにない。

●図4 カーナビ経路探索技術に関する上位10社の特許出願件数シェアとPCIシェア
●図4 カーナビ経路探索技術に関する上位10社の特許出願件数シェアとPCIシェア (画像のクリックで拡大)

 図4は,出願件数の上位10社に限定して出願件数シェアとPCIシェアを表示したもの。パイオニアとシャープは連合として表示した。PCIシェアを見ると,富士通テン(21.2%)とアイシン・エィ・ダブリュ(19.9%)が上位2社となり,高い技術競争力を持っていることが分かる。技術開発の主体は自動車メーカーよりも車部品メーカー,電機メーカーであると言えそうだ。

●図5 カーナビにおける通信技術の利用に関する上位10社の特許の出願件数シェアとPCIシェア
●図5 カーナビにおける通信技術の利用に関する上位10社の特許の出願件数シェアとPCIシェア (画像のクリックで拡大)

 最近のカーナビのトレンドとして,事故情報や渋滞情報など,現在のリアルタイム情報をいかに素早く獲得して,経路探索に活かすかという点が盛んに議論されている。そこで,カーナビにおける通信技術の利用に関する特許を分析してみた。図5は,出願件数の上位10社に限定して出願件数シェアとPCIシェアを表示したもの。出願件数では,デンソーが25.5%と圧倒的に多いのが分かる。
 一方で,PCIシェアで見ると,件数の上位10社のうち6社が0%となる。デンソーのシェアも10.8%と低くなり,富士通テン(33.8%),ザナヴィ・インフォマティクス(19.2%),アイシン・エイ・ダブリュ(17.7%)のシェアが高くなる。これらの企業の技術的な競争力が高いと推測される。

●図6 カーナビにおける通信技術の利用に関する特許の詳細
●図6 カーナビにおける通信技術の利用に関する特許の詳細 (画像のクリックで拡大)

 では,カーナビにおける通信技術の利用の分野では,どのような技術開発が行われているのだろうか。技術分野として多く出願されているものを分析したのが図6である。情報センターと車両間の通信に関する特許が最も多く出願されているのが分かる。また,通信形態としてはFM放送,携帯電話,ビーコンなど無線通信を利用するものが多いが,インターネットによる通信も開発されている。


    今回の分析条件

    【分析対象1】→カーナビ経路探索技術
    1997年以降の日本公開特許を対象に,カーナビに関連するFターム(2F029AB13,5J062AA03,5H180FF11,5H180FF12,5H180FF13,5H180FF14,5H180FF15,2C032HD16,2C032HD17,2C032HD18,2C032HD21,2C032HD23,C032HD24)のいずれかを含む特許を抽出し,分析対象とした。

    【分析対象2】→カーナビにおける通信技術の利用
    2005年以降の日本公開特許を対象に,カーナビの通信に関連するFターム「2F129AA03」と「2F129FF」で始まるFタームのいずれも含む特許を抽出し,分析対象とした。

    【本分析に利用したPCI指標】
    全分析対象特許に対し,「他社からの注目度を示すPCI指標項目」に100%のウェイト付けを行なって各特許のPCI値を算出した後,特許のステータスにより以下のパーセンテージをかけて算出した。
    登録特許:100%,審査請求済み特許:50%,公開済み特許:30%,消滅特許:0%