薄型テレビの展示で日本の量販店と比べて違うと思った点は,2つある。第1に,展示会のように各メーカーごとに閉じた空間のブースを構えていること。第2に,とても「インターナショナル」だということである。日本や欧州・韓国メーカーのほか,中国の現地メーカー各社がずらっと軒を並べている(図3)。

図3 家電量販店の薄型テレビ売り場
図3 家電量販店の薄型テレビ売り場 (画像のクリックで拡大)

 ブースの看板に書いてある文字を追っていくと「海信(Hisense)」「長虹(Changhong)」「TCL」「厦華(Xoceco)」「康佳(Konka)」「創維(Skyworth)」「海爾(Haier)」…など。TCLはもともとアルファベットだけだが,漢字とアルファベットの両方を併記するメーカーが多いようだった。

 筆者にとっては初めて耳にする現地メーカーの名前もあり,人から聞いてはいたものの,これほど多くの現地メーカーが薄型テレビをつくっていることに少なからず驚きを感じた。さらに,各社とも40型以上の液晶テレビをズラッと並べているのも筆者には新鮮であった。

 これらの中国現地メーカーが中国市場に本格的に液晶テレビを出し始めたのは,ほんの5年前だという。その後数年で液晶テレビ市場のシェアで半分を超えるに至った。上位6社を中国現地メーカーが占め,やっと7位に韓国Samsung Electronics社が顔を出す程度なのである(『日経マイクロデバイス』,2006年9月号,「中国FPDテレビ市場,発展のカギは大衆層への普及加速」p.54参照)。

液晶テレビよ,お前もか

 最近の傾向としては,現地メーカーのシェア拡大が一段落し外資系メーカーがシェアを再び奪回しつつあると言われるが,それでもなぜこれほど多くの中国現地メーカーが液晶テレビ市場に短期間で一挙に参入できたのだろうか。この「現象」の説明で説得力があるのは,やはり,本コラムでも何度か書いてきた(前回のコラムなど)「製品アーキテクチャ」ではないかと思う。

 中国現地メーカーがつくる液晶テレビの製品アーキテクチャについて考察した論文としては,例えば『液晶テレビのアーキテクチャと中国企業の実態』(東京大学COEものづくり経営研究センター,PDF形式)が興味深い。同論文によると,数多くの中国企業が液晶テレビに急速なスピードで参入してきた理由として,液晶テレビの製品アーキテクチャがモジュラー化して参入障壁が低くなった点を挙げている。つまり,液晶ドライバICを組み込んだ液晶パネル・モジュールと画像処理LSIの汎用品が市場に流通し始めることによって,中国メーカーはこれらの基幹部品を買ってきて組み立てるだけで液晶テレビをつくれるようになったのである。

 同論文ではさらに,なぜモジュラー化したのかについて,その「メカニズム」に迫っている。そのポイントは「デジタル制御技術」なのだという。というのは,パネル・モジュールは,標準的なインタフェースはあるものの,メーカーごとに特性が違い,画像処理LSIとの相性が違ってくる。パネルとLSIを両方手掛けている垂直統合型のエレクトロニクス企業の場合は,擦り合わせによって相性をぴったり合わせてきたのだが,モジュラー化するためにはどんな企業のパネルをもってきても対応できるLSIが必要になる。(次のページへ

「組み合わせの妙」をLSIが吸収