「組み合わせの妙」をLSIが吸収

 そこで,米Genesis Microchip社,米Pixelworks社,スイスMicronas社,台湾Media Tekといった専業の画像処理LSIメーカーは,デジタル制御技術を使って,さまざまな液晶パネルに対応できるようにパラメータリストを提供することにした。中国のテレビメーカーはそのパラメータリストの中から採用したパネルに最適なものを簡単に見つけられるようになったのである。同論文ではこのあたりの事情を次のように書いている。

「つまり,モジュール特性の違いから生じる組み合わせの妙も,LSI側で吸収し,テレビシステム側のソリューションとして提供される。液晶テレビ設計では,こうしてパネル・モジュールとLSIの依存関係が結果的に解消され,よりモジュラー度の高い製品として設計できるようになっている」(同論文,p.9)。

 モジュラー化が進んだ究極的な製品がパソコンであるが,液晶テレビがパソコンと違うのは,液晶テレビのユーザーが「高画質」というパフォーマンスをまだ求めている点であると思われる。専業の画像処理LSIメーカーが供給するLSIは,各社が使う汎用品であり,「普通の画質」しか提供できていない。日本や韓国など画像処理LSIを内製している統合型企業がより精緻な擦り合わせで設計した方がより高いレベルの画質を実現できていると考えられる。

 中国の量販店をのぞいていみると,その違いは価格の差になって表れていることが実感できる。今回筆者らがざっと価格を調べてみると,日本・韓国メーカーの製品は,中国現地メーカーよりも2000~3000元(3万4000~5万1000円)ほど高かった。例えば,42型の液晶テレビでみると,日本・韓国メーカーの製品が1万6000元(27万円)だとすると,同じ機能のものが中国現地メーカーだと1万3000~1万4000元(22万1000~23万8000円)と安かった。

 販売員の方の話を聞くと,日本・韓国ブースでは画質の良さを盛んにアピールし,その理由としては「パネルが日本製だから」と説明していた。一方,中国メーカーのブースでは,まずは同様に画質の良さをアピールするものの,話を聞いているとそのうち日本製などと比べて低価格であることを説明し始める。

「高画質→ブランド力向上」がまだ機能?

 つまり,中国の消費者はその価格差の分だけ,高画質であることに価値を認めていると言えそうである。同行した中国人スタッフによると,それに加えて,パソコンと違って居間に置くものなので,中国ではブランド力のある製品が選ばれる傾向があるという。中国でブランドのある液晶テレビとは,高画質を売り物にする日本や韓国製の製品である。高画質を追求することによって,ブランド価値が上がるという日本メーカーが得意とする戦略がまだ効いている市場だといえるのかもしれない。

 その一方で「普通」の画質しか達成できない中国の液晶テレビメーカーは,同質化と低価格化の悪循環に陥っている。外部調達のパネルやLSIは前述したように汎用品であるために,それを使う限りどこも同じような性能となりがちだ。いきおい差別化要因は価格だけになってしまって,コモディティー化が進む。さらに,前述したようにパソコンなどと違って日本・韓国メーカーと価格差があるために,開発費や人件費が小さい低コスト構造である点が生きてこない。こうして,中国の液晶テレビメーカーの多くは赤字に苦しんでいるという状況になっている。

 ただ,日本や韓国メーカーのブースよりむしろ派手な中国現地メーカーのブースを眺めていて思ったのは,この「高画質の差=価格差」という状況が果たしていつまで続くのか,ということである。

高性能化の主導権は誰が握る?

 そしてその鍵は「流通している液晶パネル・モジュールと画像処理LSIの高性能化がどこまで進むか」が握っていると言ってよいだろう。

 まず液晶パネル・モジュールだが,これは間違いなく数年のうちに…(次のページへ