8月17日、EU(欧州連合)で「電池規則(Regulation(EU)2023/1542)」が発効した。規制などのルールメークによって、国際競争で優位に立とうとするのは欧州の常套手段。では、欧州は世界に先駆けて電池規則を導入し、どのように活用することで蓄電池をめぐるグローバル競争を勝ち抜こうとしているのだろうか。

(出所:123RF)
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 電池規則は2006年に発効した「電池指令(Directive, 2006/66/EC)」に代わる規制として、欧州委員会が2020年の12月に提案したものだ。欧州理事会や欧州議会などの関連機関で3年8カ月にわたり議論した末の発効だ。

 この新規則の目的は、EUが2019年に発表した「欧州グリーンディール(The European Green Deal)」が定める2050年までの温室効果ガス排出量ネットゼロ目標や、経済成長と資源消費のデカップリングなどの目標達成を後押しすることだ。電池規制は以下の3つの観点から、世界の蓄電池関連事業者に影響を及ぼすだろう。

 まず第1に、電池規則の発効後はEU域内で蓄電池を販売する事業者や、EU加盟国に蓄電池を輸出する事業者、電池規則で役割や責任が定められた事業者は電池規則に従うことが要求される。欧州市場に参入しようとする事業者にとって新たなハードルとなる。

 第2に、電池規則で定めた要件が他国・他地域でも標準となる可能性がある。なぜなら、この規則は蓄電池が環境に及ぼす悪影響を防止・低減し、環境と人間の健康を守るという世界共通の目的を達成するために作成されたものだからである。他国・他地域で先行する規則がなければ、欧州の電池規則やその運用のためのシステムがすでに作られているため、それに適合させるのは容易である。

 第3に、蓄電池がデジタル情報インフラの構築と運用の先行事例になり得る。EUはデジタルを環境と並ぶ二大成長エンジンと位置づけている。電池規則はデジタル情報インフラで蓄電池の残存性能などの情報を管理することを義務付けている。今後、これに関連する規格や標準は欧州企業が主導して開発することになる。EUはデジタル情報インフラ分野の覇権も狙っているとみて間違いないだろう。

 詳細は次回(第4回)で解説するが、包括的な産業データの連携を目指し、データ連携の仕組みである「Gaia-X(ガイアエックス)」や自動車サプライチェーンに特化した仕組み「Catena-X(カテナエックス)」といったプロジェクトがすでに始動している。さらに「デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)」や「バッテリーパスポート」などデータ連携の仕組みを利用した情報共有の仕組みづくりも進行中だ。

電池規則は2050年のモビリティー電動化を実現するためのもの

 では、電池規則の内容を見ていこう。電池規則は14の章、96の条項から成り、前文や付属書を含めると350ページ以上のボリュームがあるため、すべてを紹介することは難しいが、各章のタイトルおよび特記に値する条項を図1に示した。

電池規則は環境影響の低減を目的にしている
電池規則は環境影響の低減を目的にしている
図1●電池規則の構成および特記すべき条項(出所:電池規則(2023年7月12日版 PE2 2023 REV1) を基に著者作成)

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