エネルギーを産業誘致の新たな武器にしようとしている北海道苫小牧市。広大な産業団地「苫東」を擁する
エネルギーを産業誘致の新たな武器にしようとしている北海道苫小牧市。広大な産業団地「苫東」を擁する

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大やウクライナ戦争で、経済安全保障への危機感が高まっています。ほしい時に、ほしいモノを、世界中から入手できるグローバリゼーションは転換期を迎え、食料やエネルギー、半導体などを自国生産する動きが欧米などでも急速に広がっています。

 日本では、半導体の国内生産機運が高まっています。なんといっても話題なのは、世界最大の半導体受託製造企業、台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県菊陽町に建設中の新工場でしょう。自動車生産などに欠かせない半導体を国内で確保することが喫緊の課題となっているためです。

 TSMCが熊本県に進出を決めた理由の1つに、九州エリアの安価な電気料金があったと言われています。TSMCの進出が決まった時、複数の関係者からこんな見立てを聞きました。「九州は電気料金が安い。この先できる新しい工場は、すべて九州になるのではないか」

工場は膨大な電力を使う

 工場は大量の電力を使います。年間の電気料金が数十億円、数百億円に上るところもあるほどです。例えば、製鉄(電炉)では、製造原価の1割が電気代と言われます。

 ですから、企業が新しい工場をどこに建てるのか考える際には、電気料金が安いことはとても重要なのです。例えば、工場を誘致したい自治体が固定資産税などを減免したとしても、電気料金の方が支払う金額が大きいわけです。

 日本は高度経済成長期に製造業を支援するため、大企業の工場に対して、電気料金を非常に安く抑える方針をとってきました。当時は、全国に10ある大手電力会社が電力の供給を独占的に行っていたため、産業政策として電気料金を安くすることができたのです。

 産業優遇のスペシャルプライスは、驚くほど安いものです。昨今の電気料金上昇で、これまで長らく維持してきた安価な料金にも値上げの波はきています。とはいえ、非常に安いのです。ただし、新たに工場を立地する場合、地元の大手電力からこうしたスペシャルプライスを受けることは難しいのが実情です。

 ある自治体の担当者は、こう明かします。「工場を誘致する際には地元の大手電力になんとか電気料金を安くしてくれるようにお願いします。ですが、この交渉はとても難しいものです。大手電力にとって工場向けはそもそも利益率が低いので、安くすることにメリットがないためです」。

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