再エネ電力への切り替えを実行した企業の実例から、具体的な手法や成功のポイントを紹介する連載。第3回で取り上げるのは、工場の屋根に第三者所有型の太陽光発電を導入した食品製造業L社です。
L社は毎年、相見積もりを取って電気料金を削減してきましたが、大手電力の値引率に及ばない新電力から敬遠されるように。電気料金の削減を検討する中でたどり着いたのが、第三者所有型の太陽光発電の導入でした。
相見積もりによるコスト削減に限界
食品製造を手がけるL社の売上高は約500億円。年間電気料金は約3000万円です。電力調達は本社の調達部門が統括しています。
毎年、事業所ごとに複数の新電力や大手電力に声をかけて相見積もりを取り、最低価格を提示した電力会社を選定してきました。ここ数年は、最も価格の安い地域の大手電力会社と契約しています。
しかし、来年度の見積もりを依頼したところ、複数の新電力から「来年は参加を辞退したい」との連絡を受けたのです。最初の頃は新電力も積極的に見積もりに参加してくれていました。ですが、大手電力会社の値下げ幅が大きいため、新電力は最初から結果の見えている相見積もりに参加してこなくなったのです。
そうなると、大手電力の単独見積もりにならざるを得ず、値上げされる可能性も十分に予想されました。L社の調達担当者は、相見積もりによるコスト削減の限界を感じ始めました。
再エネ導入の推進について、全社的な方針はありませんでした。ですが、ある工場の工場長は以前から再エネ導入に関心を寄せており、調達部門に相談を持ちかけていました。しかし、本社の調達部門はコストアップへの懸念から、検討に前向きではありませんでした。
そんな中、ある再エネ系の新電力から「御社の工場なら太陽光を設置することで、電気料金の上昇なしに再エネ導入ができるかもしれません」という提案を受けたのです。
太陽光による電力コスト削減に着目
早速、見積もりをもらうべく現地調査をしてもらうと、思わぬ展開に。L社の工場屋根には約400kW の太陽光パネルの設置が可能でした。しかも、第三者所有型(TPOモデル)を利用すれば、初期費用を負担せず、毎月、電気料金を支払うことで工場の屋根に設置した太陽光パネルからの電力を使うことができるといいます。
太陽光発電設備は、TPOモデルを提供する事業者が所有します。この提案のTPO事業者は太陽光パネルメーカーでした。ユーザー企業はTPO事業者と15年間の電力購入契約(PPA)を締結し、その間は屋根で発電した電力を施設で自家消費し、その分の電気料金を支払う仕組みです。
TPOモデルは、「第三者所有型」「第三者保有型」「PPAモデル」など、複数の言い方がありますが、意味は同じです。
この提案では、従量単価が15年間で18円/kWhと設定されていました。現契約の電気料金(再エネ賦課金や燃料調整費を含む)の従量料金単価が19円/kWhだったので、少し安い単価です。
魅力的だったのは、初期費用負担がなく基本料金も設定されていないことです。太陽光発電による電力を利用した分は、基本料金分のコストが削減できるのです。
しかも、太陽光発電設備のメンテナンスはTPO事業者側で賄うため、ユーザー企業にとっては手間もコスト負担も不要です。さらにPPAが終了する15年後には、太陽光発電設備が無償譲渡されるプランでした。
加えて、契約期間に満たない解約要件も残存簿価ベースで償還とされており、妥当なものと判断し、契約することを決めました。
コストアップを抑えて再エネ導入に成功
太陽光が発電する電力は、工場の電力需要のおおよそ3割程度。その分の電気料金はTPOモデルによって、15年間固定できるのがメリットです。
今後、電気料金は上昇することが予想されています。資源価格の上昇による火力発電のコスト増や、FIT制度を利用する再エネ電源の増加による再エネ賦課金の上昇などが、その理由です。
TPOモデルは託送料金のほか、再エネ賦課金がかかりません。今後も再エネ賦課金が上昇してくことを考えると、TPOモデルが相対的に有利になると予想されるのです。コストを抑えた再エネ電力の調達を考える際には、TPOモデルは有力な選択肢になるでしょう。
実質的にメリットの多いTPOモデルの導入を決定したL社の工場。今後は残り7割に相当する、電力会社から受電している電力の再エネ化を進めたいという意向を持っています。
今回のTPOモデルを機に再エネ利用に関心を持った本社の調達担当者は、現契約の再エネ電力への切り替えも検討を進めることにしています。