2020年4月の発送電分離を目前に控え、九州電力が大規模なシステム障害を起こしている。振り返れば、2016年4月の電力全面自由化の際には東京電力パワーグリッド(PG)が大規模なシステム障害を起こした。膨大な顧客を抱える大手電力会社でシステム障害が発生すると、どのように影響が広がっていくのだろうか。2016年の東電のシステム障害を振り返ってみたい。

(日経エネルギーNext 2016年6月号 pp.6-7を再掲しました。記事中の人物の所属や肩書き、製品・サービス・企業の名称は記事掲載当時のものです)

(出所:Adobe stock)
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 「顧客から損害賠償請求を受けるかもしれない」。ある小売電気事業者幹部は明かす。事業者から顧客への電気料金請求が大幅に遅れていることが、その理由だ。

 一般送配電事業者は毎月、需要家ごとに集計した使用電力量の確定値を小売電気事業者に通知。この通知を基に、顧客に電気料金を請求する。ところが東京電力パワーグリッド(PG)から事業者への通知が大幅に遅延している。

 通知遅延が出始めたはのは、(2016年)4月上旬。ただ、対象件数が少なかったため、影響は限定的だった。だが、5月に入ると件数は急増。ある大手新電力幹部は、「地獄の5月」と表現する。小売電気事業者の料金請求チームは、顧客からのクレーム対応と業務量の増加で残業が続く。「派遣社員が辞めてしまった新電力もある」(関係者)。

 こうした中、冒頭のように損害賠償や遅延損害金の支払いを迫られる小売電気事業者も出てきた。例えば、ビルや倉庫のオーナーが高圧の顧客の場合、小売電気事業者からの請求を受けて、テナントに再請求するケースがある。契約条件によっては、請求遅れが原因で電気料金をテナントから回収できないためだ。請求日程が明確に決まっている自治体などでは、請求遅れが遅延損害金の対象になることもある。

 低圧の顧客数が多い事業者の場合、請求業務はシステムで一括処理するのが通例。需要家ごとの個別対応は難しく、「全データが揃ってから一斉に請求するしかない」(関係者)。こうした事情から、「遅れが生じた4月分と5月分をまとめて請求するつもりだったが、5月分のデータが揃わなければ、今月も請求業務に入れない」という。

 さらに深刻なのは、企業規模の小さな事業者だ。「請求できないので入金がない。だが、電源などの支払いは通常通りなので、資金繰りが厳しくなってきた」(小売電気事業者幹部)。

 遅延が発生しているのは、東電エリアの約2700万件のうち、全面自由化に合わせて開発した新たな託送業務システムが対象とする約60万8000件(5月30日時点)。そのうち高圧・低圧合わせて、約2万5000件で通知に遅れが出た。全体の約4.2%にあたる。

 6月に入り、5月分の請求業務も始まったが、「先月と全く同じ状況。確定値の通知遅延は、ほぼ同じ件数で今月も起きている」とある小売電気事業者幹部はうなだれる。

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