新型コロナウイルスが世界にもたらしたものは、偶発的な犠牲や一過性の経済的打撃ではない。底流をなすのは気候危機の深刻化や文明の脆弱性だ。気候や生態系の変化が感染症の増大要因になることは何年も前から研究者が指摘してきた。化石燃料に大きく依存する現代文明を見直さなければ、危機は何度でもやってくる。

(出所:Adobe Stock)
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 世界経済は突発したパンデミックと、都市封鎖・貿易渡航途絶に起因する経済的パニックのダブルパンチを受けて、出口が見えない混迷をさまよっている。

 ここでは「未来文明学」の視点から、今回の事態で顕わになった「文明の脆弱性」「文明の破局性」、そして「人類の絶滅可能性」の3点について、現代文明が直面する難問(=アポリア)の深層構造を改めて考えてみたい。

地球温暖化がパンデミックの温床に

 今回のパンデミックは、現代文明そのものが内蔵する文明構造の脆弱性を顕在化した。

 21世紀になってから、科学者は地球温暖化が温床となって各種の感染症が起きる可能性を警告してきた。

 SARS(重症急性呼吸器症候群)やH1N1(2009年新型インフルエンザ)、MERS(中東呼吸器症候群)といった新種の感染症のほか、頻繁に発生するようになったマラリアやデング熱なども地球温暖化による気候(気温・降雨・湿度)や生態系の変化などが複雑に絡み合って起きているという説がある。

 WHO(世界保健機関)は2003年以降、地球温暖化による感染症の研究報告書を何度も公表してきた。日本の環境省も2005~2006年に有識者懇談会でまとめた「地球温暖化と感染症」を公開している。英医学研究論文誌「The Lancet」は2019年に気候変動による感染症増加を警告していたし、2020年3月にはコロナウイルス疾患の脅威評価報告書を発表した。

 カナダ国立微生物学研究所のニコラス・オグデン氏は「気候変動を含む環境変化が新型疾病発生の原動力になっている」と指摘し、「生物多様性喪失などの気候変動と環境変化は、病原菌を進化(変異)させるように環境を変化させ、人間への感染力を強めるように病原菌を進化(変異)させる」と警告している(参照)。

 環境NGOのグリーンピースは3月31日付け記事「新型コロナ感染症と気候変動の関係は?」で、アジア・アフリカの野生動物の間で1000種類に及ぶ「未知のウイルス」が発生しているとする米国際開発庁(USAID)の委託研究の結果を伝えている。新型コロナウイルスも新たに変異した「未知のウイルス」の1つであるが、ゲノム構造や地球温暖化と変異との関係などはまだわかっていない。

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