近年、毎年のように人命が奪われる豪雨災害が発生していますが、その要因の1つが線状降水帯による豪雨の多発です。気象庁は今年6月から「線状降水帯予測」の発表を開始。激甚災害の引き金となる線状降水帯とは一体、何なのか。発生のメカニズムと、自然災害に立ち向かう気象予測の最前線を解説します。

(出所:123RF)
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 9月23日、台風15号が本州付近に接近し、東日本の太平洋側を中心に大雨が降りました。このとき気象台は、静岡県と愛知県で線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続き、災害発生の危険度が急激に高まっているとして「顕著な大雨に関する情報」を発表しました。

 今夏は8月3日から4日にかけて山形県と新潟県でも線状降水帯が発生しました。台風から変わった熱帯低気圧が、北日本に停滞していた前線に向かって多量の水蒸気を送り込んだことで、線状降水帯が発生したのです。24時間で約400ミリという記録的な雨が降り、重大な危険が差し迫った異常事態を知らせる「大雨特別警報」が発表されました。雨の降り方は一昔前とフェーズが変わり、豪雨災害への対策は喫緊の課題です。

 大雨をもたらす要因には梅雨前線や秋雨前線、台風などがありますが、線状降水帯もその1つです。線状降水帯の名が一般に広く知られるようになったのは、2014年、広島県で発生した豪雨による土砂災害でした。線状降水帯により広島市安佐北区では1時間に最大121ミリの猛烈な雨が降り、24時間雨量は観測史上最大の287ミリに達しました。

 山の斜面に広がる住宅地に土砂が流れ込み、77人の尊い命が奪われたほか、鉄道やライフラインにも甚大な被害が及びました。気象関係者の間では、それ以前から線状降水帯の存在は知られていましたが、このとき気象庁気象研究所が報道向けの解説資料で「線状降水帯」という言葉を使ったことが、一般に知られるきっかけになりました。

線状降水帯とは、どのような現象なのか

 線状降水帯は発達した雨雲が線状に次々に発生し、数時間にわたり、ほぼ同じ場所に停滞または通過して大雨を引き起こす気象現象のことです。雨雲の列は幅20~50km、長さ50~300kmにも及びます。

 線状降水帯が発生する要因は、季節や気圧配置によって違いますが、梅雨期に停滞する前線に向かって太平洋高気圧の周辺から暖かく湿った空気が流れ込むなど、下層における多量の水蒸気が起因すると考えられています。図1に発生のメカニズムを記しました。

次々に発生した雨雲が線状に並び、同じ場所で長時間雨が降り続く
次々に発生した雨雲が線状に並び、同じ場所で長時間雨が降り続く
図1●線状降水帯の発生メカニズム(出所:著者作成)

 ①気圧配置などの影響で、地表付近で暖かく湿った空気の流れ込みが継続します。②その空気が前線や地形の影響で上昇すると、上空の空気で冷やされて次々に活発な雨雲が形成されます。③発達した雨雲(積乱雲)が上空の風で流され、風下に移動して線状に雲の列ができます。④風上側で発生した新しい雨雲が流されて、風下側で衰弱するまで、数時間にわたり雨が降り続きます。

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