今夏は記録的に早い梅雨明けと連日の猛暑日からスタートしました。なぜこれほど早く梅雨は明けたのでしょうか。そして、どんな夏になりそうなのでしょうか。気象予報士の小林チカさんに解説してもらいました。

(出所:123RF)
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 例年、沖縄で梅雨が明ける頃、九州・四国・本州は本格的な大雨シーズンに入ります。梅雨末期は毎年のように豪雨が発生します。いよいよ豪雨到来かと気持ちを引き締めていた矢先、今年は沖縄の梅雨明けから1週間~10日ほどで、関東を皮切りに九州から東北南部の梅雨明けが次々に発表されました。

 ほとんどの地方で、統計開始以来、最も早い6月下旬の梅雨明けとなり、異例の早さで夏本番を迎えました。群馬県伊勢崎市では6月25日に最高気温40.2度と、6月としては全国で統計開始以来、初めての40度超えを記録。7月初めにかけて全国各地で連日のように35度を超える猛暑日となりました。

 なぜ今年は記録的に早く梅雨が明けたのでしょうか。そして、今夏の暑さは今後どうなるのでしょうか。

 実は、5月には早い梅雨明けの予兆がありました。気象庁が「2021年秋に発生したラニーニャ現象が、今夏に継続する可能性が高い」という予測を発表したからです。

 ラニーニャ現象とは、太平洋赤道付近の南米ペルー沖から日付変更線付近の海域の海面水温が平年より「低く」なる現象のことです。統計によると、ラニーニャ現象が発生した年の日本は「猛暑・寒冬」の確率が高くなります。他方、「エルニーニョ現象」は同じ海域の海面水温が平年より「高く」なる現象で、日本は「冷夏・暖冬」になりがちです。

 エルニーニョ・ラニーニャ現象は、ひとたび発生すると1年程度続き、その期間は日本を含め世界各地に異常な天候を引き起こすと考えられています。このため、エルニーニョ・ラニーニャ現象の発生の有無が、長期的な気候の予測を行う上で重要な指針になるのです。

なぜラニーニャが起きると梅雨が早く明けるのか

 では、「ラニーニャ現象の発生と記録的に早い梅雨明け」にはどのような関係があるのでしょうか。

 梅雨明けとは、太平洋高気圧が日本付近に張り出し、梅雨前線を北へ押し上げて、日本が夏の空気に覆われる状態になることです。今年は太平洋高気圧の勢力が、例年より早く6月下旬に一気に強まり、早い梅雨明けとなりました。この要因の1つがラニーニャ現象です。

 ラニーニャ発生時の海洋と大気の特徴を示した図1を使って、もう少し解説します。この図は、観測データに基づき地球大気や海洋・陸地の状態をスーパーコンピューターで予測する「数値予報モデル」を用いて気象庁が作成したものです。

今年はラニーニャで太平洋高気圧が早いペースで勢力を強め、梅雨前線を押し上げた
今年はラニーニャで太平洋高気圧が早いペースで勢力を強め、梅雨前線を押し上げた
図1●数値予報結果に基づく海洋と大気の特徴(出所:気象庁)

 まず、ラニーニャ現象が発生すると、太平洋赤道付近の南米ペルー沖から日付変更線付近の海域の海面水温が平年より「低く」なります(図右下の水色部分)。その影響で、太平洋熱帯域西部のインドネシアやフィリピン付近の海面水温が平年より「高く」なります(図左下のピンク部分)。

 海面水温が高いほど、その海域では海面から活発に蒸発が起き、次々に積乱雲を発生させます。この積乱雲とともに上昇した空気は、日本の北東側で下降気流となり、太平洋高気圧の勢力を強めます(図右上の濃紺部分)。今年はフィリピン付近の海面から強い上昇流が発生したことで早いペースで太平洋高気圧の勢力を強め、日本付近の梅雨前線を北に押し上げました。

 これが今年の記録的に早い梅雨明けの主なメカニズムですが、その他にも「マッデンジュリアン振動」という地球規模の大気の活動や高緯度の偏西風の蛇行などが影響している可能性もあります。

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